2022年9月8日木曜日

能ある鷹なのか

 





バス停から大急ぎで転がり込むように家に入ると、トンカの熱烈な歓迎を受けた。人には飛びつかないようにと厳しく言っているが、一人で長時間留守番をしていたのだからと、大目に見てやることにしている。


普段着に着替えたり、水を飲む時間さえ与えてくれずに、きゅいん、きゅいんとけたたましい。犬は無駄に吠えさえしなければ、驚いた時、嬉しい時、怖い時、吠えるのは自然だし、吠えるべきだと思っている。しかし、ご近所付き合いという面倒なものがあり、隣の家の幼い子達が外で泣き始めたり、大人たちが大声で電話をしたり、食事をとったりする度に、トンカが吠えていては困りもの。できるだけ、無駄泣きはしないように気を遣っている。


そもそも一日中家の中にこもっていたのだから、大いに飛び跳ね、エネルギーを発散したいだろう。だから、出来るだけ急いで散歩に連れ出すことにしている。


ところが、このところ急に局所的ににわか雨が降る日が続いている。トンカに天気予報を知らせても、これから雨が降るから散歩は今日は止めようと言っても、分かってもらう事は無理な相談。従い、レインコート着こみ、キャップを被って、いざ出陣となる。


普段は濡れることを嫌がっているのに、散歩となると話は違う様子で、ぱらぱらの小雨であれば全く問題なく嬉しそうに外に出る。ところがある時、森に行く手前で久々の土砂降りに合ってしまった。しかも雷を伴う派手なものだった。どうしようね。ちょっと雨宿りしようか。


先ほどすれ違ったジョギングをしていた二人連れが大急ぎで戻ってきた。せっかくだけど、この天気じゃ無理よね、と声を掛けられる。なんだかつられて我々も家路を急ぐことにした。子供を迎えに来たのだろうか。傘を持って走っている男性とすれ違う。「あら、ありがとうございます!傘は私にですよね。」なんて軽口をたたきたくなるが、何せトンカを連れているので、おとなしく土砂降りを体中に受けながら歩き続ける。


流石のトンカも途中で立ち止まっては、ぷるる、ぷるると身体を振って水気を飛ばしている。シャワーを浴びたと思えばいいか。風邪を引くほどの寒さではないし。


道路の側溝が既に川の様になっている。お願いだから徐行して、と車に願いながら、いつの間にか速足から駆け足になっていた。坂を上がったところを曲がれば、もう我が家。


いつものように横断歩道を渡り、我が家の前の小径に入ると、驚いたことにトンカが我が家の門の前で座り込んだ。え?知っていたの?こちらを早く開けてよと言わんばかりに見上げている。


何十回、いや、既に何百回になっているだろうか。ここの通りを通るが、門の前で立ち止まったことはなく、いつもやり過ごそうとする。バッタ達も、トンカは家が未だ分からないんだね、と言っていた。


いや、分からないどころじゃない。ちゃんと知っていて、やり過ごしていたのか。何たることよ!


流石にずぶ濡れになってしまったので、早く家に帰ろうと思ったのだろうか。いやはや、驚くしかない。能ある鷹は爪を隠す。トンカは能ある鷹なのだろうか。にんまりしながら、ぐっしょりと濡れた手で門を開ける。


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