2023年3月25日土曜日

外は春

 





午後の二時間、電話会議が入っていた日のこと。相手の声が聞こえずに、私の声ばかりがすることに慣れてはきたが、変だなとは思っているだろうトンカ。実際に、散歩の途中で携帯で大声で一人で話をしている人がいると、不審人物と思うのか、或いは不気味だと思うのか、時々唸ることがある。


トンカの大好きな牛皮ロールをあげてもいいのだが、取り敢えずは大人しくいつもの定位置で寝そべっていることを確認し、会議の時間が来てしまったので慌ててヘッドフォンをつけて、そのまま会議に入ってしまった。


ふと、トンカがキッチンの方に向かった気配がした。水でも飲みに行ったのだろうか。一瞬トンカのことが頭を過ったが、その後は会議の内容に集中してしまい、外部要因はシャットアウトしてしまった。


三人の子育てをしたからだろうか。以前100人以上もいる超賑やかなディーリングルームで仕事をしていたことがあるからだろうか。外部の騒音を一切シャットアウトし、今やっていることに完全に集中することができる。特に異国の地では、言語を理解しようとする機能をオフにすることは容易なので、集中力を高める環境にあるとも言えようか。


会議も終盤。キッチンに向かったと思われるトンカが、サロンに戻って来ていないことに気が付いた。そして、キッチンにいる気配もない。ひょっとしたら勝手口のドアが開いていて、庭に出たのかもしれない。そういった思いが一瞬過るが、これもまたすぐに消え、会議の内容に集中してしまった。


2時間きっかりに終わると、サロンにはトンカの姿はなく、急いで勝手口を覗きに行った。が、庭へのドアは開いていない。おっつ!なんと、開かずの間の扉がちょこっと開いているではないか!


トンちゃん!


声を掛けてみると、とんとんとん、と階段を駆け下りて、えへへとばかりの笑顔でトンカが現れた。ちょ、ちょっと、どこに行っていたのよ!まさか、私の寝室じゃあないだろうなあ。トンカの口には靴下もTシャツの切れ端も、何もない。


二階の惨状を確認しに、恐る恐る二階に行ってみると、階段の踊り場に「鳴きカエル君」が半分齧られたまま転がっている。この「鳴きカエル君」は木彫りで、背中のごつごつとした突起を棒でなでると、ころころとカエルの鳴き声がする楽器だった。


「鳴きカエル君」がトンカの目に留まったことは何度もある。開かずの間の扉が開いてしまって、トンカが二階に遊びに行く時は、なぜかこの「鳴きカエル君」がターゲットになる。ちゃんと私の寝室の「鳴きカエル君」の場所に鎮座しているのに。


この「鳴きカエル君」は台湾に遊びに行った際、先住民である山の民のマーケットで出会って購入したものだった。なにかトンカを惹きつける香りでもあるのだろうか。どんなに隠しても、場所を変えても、ちゃんと見つけるのだから、何かがあることは確か。


さあ、トンちゃん。お待たせしました。散歩に行こうか。外は春。



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