2012年12月14日金曜日

人を信じる~マイナス10度のチューリッヒにて



一体、この方はどうしてしまったのだろう。
いや、私が意地悪な性格になったのか。
思い巡らせど、気分がぐったりする。

確かに、ここフランスに来て20年。
日本人らしさが薄れたと言われれば、そんなものかと思うしかない。
が、その相手の言うところの日本人らしさ、とは、
我を通さずに人を思いやる気持ち、というから、どう返事をしたら良いか困ってしまう。つまり、私には、その人を思いやる気持ちが欠如している、と言うのか?

日本からいらっしゃる大切なお客様。
小雨降る中も、朝一で北駅くんだりのホテルまでお迎えに上がっている。
勿論、北駅くんだり、などとは申し上げないし、そんなことは微塵も見せないようにしている。弊社からお車も出している。

確かに、あの日はスケジュールが過密で、
かつ、担当者のミスで引越し前の住所が記載されていたから、
企業訪問の約束の時間に20分遅れとなり、
その割には、長いこと話をしたので、押せ押せで次のアポに駆け込んだため、ランチの時間がなかった。
漸く時間が空いた夕方、
目敏く見つけたスタバで、チャイラテを、と思って並ぶと、
「僕は並ぶのが好きじゃないんです。行きましょう。」
え?ちょっと、待ってください。すぐですから。
そうして、その方がリクエストした、ドリップ式コーヒーを確保し、
チャイラテを待つ。

確かに、いらいらするほどスタバは要領が悪い。
注文をとる係り、もう一度レジで注文を確認して請求書を作成する係り、
そして、作る係り。
何故か、どこのスタバでも、作る係りの人数が少なく、お客は、馬鹿みたいにぞろぞろと並んでいる。

それでも、
朝からのすきっ腹で、とにかく甘いものが欲しかった。それに、スタバのチャイラテはいつだって幸福感を与えてくれる。

その前のミーティングが最悪な展開となったので、何とか雰囲気を変えたかった。
日本からのお客様は30代。
英語がからきしできない。悪いことに、自分の英語が相手に通じないことを、相手の努力不足だと思っている。
だから、ミーティングも変なことになる。
お客様の質問。
それに対する答え。
空回り。

なんとか助け舟を出そうとしても、何を隠そう、私にも彼の英語が分からない。
日本語でうまく、聞き出そうとするにも、
相手は頑張ってブロークン英語を繰り返す。
いや、カタカナ英語を繰り返す。

誰かが言ってやらねばならないのだろうと思う。
君の英語じゃあ、誰もわからないよ、と。
でも、さすが、お客様相手に、そんなこと言えない。
彼の上司が教えてやるべきなのだと思う。
でも、そうこうして、もう3年目。
そうして、彼の英語は上手にならず、彼の不満は溜まるばかり。
相手が質問に明確に答えてくれない、と。

そんなことが重なって、欲求不満の捌け口として私がターゲットにされたのか。

翌日は、お昼の時間に余裕がある。
そう思っていると、その間にオフィスに行って、書類をとってきて欲しいとの仰せ。
この寒い中、地下鉄でオフィスまで往復せよと仰るのか、と
唖然としたが、
昨日のコーヒー代を私が出したことを、コンプライアンスの問題で、首になりかねないから、困ると言われて、うんざりしていたので、
それも悪くないか、と思って、寒い冬のパリにお客様をタクシーに預けてオフィスへ向かう。
何がコンプライアンス、だ。
私のポケットマネーで出したコーヒー代。
私は会社に請求もしないし、どこにも記録しない。
彼の首が飛ぶのであれば、証拠が残っていなければなるまい。
つまり、彼は、私が刺すと思っているわけだ。馬鹿馬鹿しい。

次のミーティングの場所で待ち合わせ。
それまでに、適当なブラッスリーかカフェでランチをし、暖をとっていて欲しいとタクシーのドライバーには伝えてある。

アンバリッドは日差しこそあれど、冷たい風が耳を容赦なくたたき、
頭が痛くなってくる。
駆け込んだミーティング場所には、未だお客様はいらしていない。
と、非常に不機嫌な様子で入ってくる。
2時間も寒い中、外でタバコを吸っていたので、さすがに辛かった、と仰る。
そうして、ドライバーは親切心に欠けていて、英語もろくにできない、とくる。

ランチは?と伺えば、
最初は空いていても、どんどん混んで来たから、さっさと出ましたよ、と。
余りに寒いので、時間までブラッスリーに残っていらしたらよかったのに、といえば、
だから、フランス人なんですよ、
日本人は相手のことを思って、席を立つんです。
と怒った調子で返事が戻ってくる。

私をオフィスになんて追いやらなければ、
ランチをご一緒し、次のミーティングの場所のロビーで待つ、など
寒さを凌いで過ごしましたのに、
と喉まで出掛かるが、勿論、言わない。

イライラは次のミーティングで爆発し、
誠心誠意で対応してくれている相手のフランス人女性に対して、
申し訳なくなってしまう。

「ご満足していただけていないようなので、もう一度ご説明します。」

漸く納めて、最後のミーティングに向かう。
と、弊社オフィスが見えてくる。
「なんだ。すぐに帰れるからって、最後にこの会社のアポを入れたわけなんですね。」と、嫌味たっぷりで言われる。

「そこまで仰るなら、明日、チューリッヒには行かないことにしちゃいますよ。あんまり、いじめないでくださいよ。」

冗談っぽく、言う。
日本の仕事の環境がひどくてやっていられないこと、フランスがうらやましいこと、他社がどんどんリストラでいなくなっている中、のんびりと生き残っている私がうらやましいこと、などなど。

弊社がまさにリストラの渦中で8割が解雇となり、
実は、私もその一人となる可能性がある、
なんて言えるわけがない。
そんな会社とは、仕事ができんと、なってしまうではないか。

思いやられたチューリッヒだったが、
マイナス10度の中、
凍った噴水を見ながら一緒に歩いたことが良かったのか、
或いは、前日に、いじめないで欲しいと言ったことが良かったのか、
人が変わったように素直で、嫌味っぽいところがなくなっていた。

それでも、
上司の悪口ばかり。
そして、相変わらず、企業訪問では、相手の説明が的を得ていないと不満を訴える。

ある会社で、
マイナス10度なのに、お客様が手袋をしていないことに驚いた女性に対して、
「まったく、自分中心にしか物が考えられないんですよね。なんで手袋なんかするんだか。」
いや、その言葉そのままを、きっと彼女も言いたいのではないでしょうか。
そう言うと、まあ、そうかもしれませんね、と思った以上に素直な反応がかえってくる。

夕食も、コンプライアンスの関係で、ワリカンであっても、一緒に食事しただけで、狙われるとか。
呆れたが、まあ、それならそれで、とさっさと夕方に別れる。

一人淋しくはないのか。
なんだか、ぽつんとした後姿が気にならなくもない。

そうして最後の日。
訪れた企業で大きなチョコレートセットをいただく。
「これ、黙っていてくださいね。こんなのもらったら、大変なことになる。あ、そうか。タクシーの運転手にあげれば良いのか。」

そこまで信用してもらえないのか。
私がどこかに報告すると思っているのか。
疲れてしまう。
「どうぞ、信用してください。誰にも言いませんから。」
そうして、つい、付け足してしまう。
「人を信じることも、どうぞしてみてください。
信じて、たとえ裏切られても、それはそれで仕方がない。勿論、傷つきます。
それでも、また信じる。
人生、人を信じられなかったら、あんまりに寂し過ぎるのでは。」

空港で、別れる。
「大変お世話になりました。ありがとうございます。
来年の一月にフランクフルトには行くので、その時にまたお願いします。」
そう仰る。

ひょっとしたら、お会いするのはこれが最後となるのか。
その思いが頭を過ぎるが、
今後ともどうぞ宜しくお願いします、と深々と頭を下げる。

どうぞ、人を信じることを始めてください。
そして、幸せを勝ち取ってください。
心で呟く。









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皆さんからのコメント楽しみにしています

4 件のコメント:

Muffin さんのコメント...

日本人らしさねぇ…。

内ごもりが話題になっている日本人の中で果敢に外に出て行ってビジネスしている点で、彼も今の日本人らしくないだろうしそれが自信にもなっているんだろうけど、ヨーロッパの大陸の方だから自分に逃げ道を作っているのかな。
英語圏で果たしてこれだけ強気でいられるだろうか?
海外で仕事をしていても、外からのイメージとは裏腹に日本語と日本式でしか交渉できない人が多いし、ベースは日本だからと困っている様子もないのがいつも不思議。
日本企業の名を背負って若くても自分が偉くなった気でいる絵で描いたような勘違いもよく見るなぁ。
そんな人たちに対処する、日本も世界も知っているクッカバラのような方たちがいつも一番大変なのよね…。

ファイトだ!経験値もHPもMPもいっぱい持ってる!

kookaburra さんのコメント...

おお、Muffinさん。最後の一文、有難く頂戴します。
思わず、ググッテしまいそうになりました。HP、ホームページ?じゃあ、MPは?
いや、違う。ヒットポイント、そしてマジックパワーに違いない。

最近のゲームは専門コンソルではなく、スマートフォンで簡単に廉価で購入し遊べると言われているけど、Muffinさんは、どんな端末で遊んでいるの?

Gameloftの商品は3Dで、芸が細かいと漏れ聞いたけど、どう?

でも、すっごく元気になったわ。ありがとう。

Muffin さんのコメント...

この頃ゲームはご無沙汰です。
魔法が覚えられないし、辞書みたいな攻略本を読む気力もない。
(海外駐在中の子供たちって攻略本で日本語キープするところが大みたい)
もっぱら暇つぶしのスマホ・パズルかな。

kookaburra さんのコメント...

なるほどねぇ。ゲームや漫画で日本語レベルを維持するって聞いたことあったっけね。

ゲームも複雑になると、それなりの心構えをしないと手をつけられないってことか。ふむふむ。