2013年7月23日火曜日

11時05分




「あの子達、みんな英語が上達して帰ってきたのね。」
つぶやく隣のマダムの声に思わず笑ってしまう。
土曜の北駅は人、人、人。
ユーロスターの出口は迎えの人混みと、
到着したばかりの乗客で膨らんでいる。
これから出発する人々も
その隙間を縫って行き来するから
とにかく暑さと喧騒で混雑は大変なもの。

奥の方にダリアの様な笑顔が見える。
長女バッタ。
そのすぐ後ろ、頭一つ分高いところに息子バッタの笑顔。

二週間のイギリスでの語学研修を終えた彼らを車に乗せて帰宅。

同じスーツケースの中身で翌日のブルターニュに行くと言う息子バッタ。
中身の点検は一応するけど、翌朝にすると言う長女バッタ。
一晩だけの逢瀬。
喜ぶかと、サーモンのチラシ寿司を予定していたが、
ベジテリアン一家に滞在した息子バッタはプレ(鶏)を所望。
プレの足にかぶりつきたいらしい。
一方、一人暮らしのマダムとお食事に出てばかりいたという長女バッタ。
デトックスしなきゃ、とため息。
OK。今夜は君たちの好きなようにしよう。

翌日、久々にバゲットのサンドイッチが食べたいとのリクエストに、
朝からパン屋さんに一っ走り。
息子バッタの大好きな生ハムとチーズのサンドイッチを作る。
桃を洗って、冷やした麦茶をペットボトルに入れる。

9時半には出発すると宣言していたが、
どうやら長女バッタの点検は終わっていないらしい。
それでも、何とか10時15分前には皆で車に乗り込む。

夏の日曜。
道路はどこも空いていて、
30分もするとモンパルナス駅に到着。
駅パーキングの一つに駐車するが、
どうやらプラットホームの中間点の駐車場だったらしく、
メインゲートに辿りついた時には既に10時30分。

TGVの乗車券はe-チケットを既に印刷済みながら、
乗り換え後のローカル線の乗車券は、駅にある切符販売機から予約分を印刷しなければならない。
目ざとく見つけて、コードを押すが、反応が今一つ。
息子バッタが、TGV専用切符販売機であることを発見。
慌てて、切符売場に行こうとするが、
その手前に並んでいる一般切符販売機で、再度コードを入れる。
支払いに使用したクレジットカードを挿入するように指定される。
暗証番号の確認後、この支払いにはこのカードが使用されていません、と明示される。
困ったなぁ。
息子バッタが、心配そうに、先日、チップが読みにくくなったから、カードを変更したことを指摘。
そうかなぁ。その後で切符を購入した気がするのだけど。
とにかく、ここでは拉致が明かない。
やはり切符売場に並ぶしかない。

親切な駅員さんが、列に並ぼうとする人々に声を掛け、アドバイスをしたり、並ぶ列の指示をしている。
と、「おや、バイオリンですね。先ずは一曲。」
若い駅員さんの呑気な声が掛かる。
既に10時40分。こちらは焦ってきている。
バッタ達にTGVの乗車券を手渡し、荷物もあるし、とにかく先に行っているように伝える。
イライラしても、列の長さは変わらない。
とにかく、ここは冷静に待とう。

漸く順番がくると、説明をし、昔のクレジットカードを差し出すと、ビンゴ。
慌ててもぎ取るように切符を奪い、
持っていた長女バッタのサンドイッチの入った紙袋に入れ込む。
とにかく、9番線まで走る。

それから、今度は長いプラットホームを走り続ける。
18号車。
なんだってTGVを二台もドッキングさせているんだろう。
最終案内が構内に流れている。

息が切れるころ、
迎えに来てくれた息子バッタと出会う。
「ママ、ありがとう。」
何度も連発。
そりゃそうだろう。額からは玉の汗。
「ママ、お金が欲しいって」長女バッタのリクエストを伝える息子バッタ。
そうか、昨日は一銭も使わなかったとポンドを全部返してもらっていたが、
その代わりにユーロを手渡してもいなかった。
慌てて、お財布から20ユーロ札を取り出す。

と、18号車のドアの前で、長女バッタが荷物と一緒に待っている。
先に、荷物ぐらい入れておけば良いのに、と思うも、そこは子供なのだろうか。
バッタ達にしてみれば、ママを待っていたのだろう。
息子バッタが大きな身体を屈めて、抱きついてくる。
ママを残してバカンスに行ってしまうことが後ろめたいのだろう。
楽しんできてね、声を掛ける。

さあ、早く荷物を入れて中に入らないと。
座席は入口のすぐ近くらしく、息子バッタが大きな重いスーツケースを
棚に上げている様子が窓越しに見える。
二人が漸く腰を下ろしたところで、笑顔でバイバイ。

と、長女バッタが急に驚いた顔をして立ち上がり、ドアの方に走り寄る。
何事かと、ドアまで行ってみると、
「ママ、フェリーのチケット!」
あら、渡したわよ。
「どこに?もらっていないよ。」
泣きそうな声。

あ、ああ、まだか。彼女の机の上に置いておいて、
心配だからと私の鞄に入れておいたのか。
慌てて鞄からチケットの入った封筒をつかみ、
彼女に手渡す。
と、同時に扉が閉まる。
危機一髪。
11時05分。

電車はブルターニュに向かって、ゆっくりと動き始める。
汗びっしょり。
大事に至らずに、ぎりぎりでチケットを手渡せたことに安堵の大笑い。
どうやら、他の乗客も笑っている。
ちょっと寂しげな息子バッタと、ほっとした表情の長女バッタの顔が遠ざかる。

Bon voyage、そして、Bonnes vavances!




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