2015年1月20日火曜日

それぞれのストーリー



いつからだろう、気が付いたのは。
早朝のバスはほぼメンバーが決まっているが、中でも、寒い中ストッキングにヒール姿の出で立ちは、自家用車通勤ならまだしも、この片田舎からバスと電車を乗り継ぐ通勤族には珍しく、彼女は目立っていた。

いかにもキャリアウーマンといった威勢の良さと、ふくよかな亜麻色の髪をたなびかせたマダムの気品を併せ持っていた。

パリで電車を降り、エスカレーターで上昇している時に、品の良いバックスキンのヒールを目にし、所有者を確かめたところ、彼女だったことがある。そうして、パリでの下車が同じ駅であることを知った。

大抵、電車の中では新聞を読んだり、メールの返事を書いたり、今日やるべきリストを頭に描いたりと、頭は常に動いている。もしくは、さっき出たばかりのベッドの温もりを求め、ぼんやりしており、あまり周囲には目を配っていない。

だから、いつから気が付いたのかは定かではない。正確には、いつから始まっていたのかは定かではない。

ある日、エスカレーターから上の階に出たところで、向こう側に立っている人に向かって歩み寄る人影を見る。それが彼女だった。その時には、そんなに意識もせずに、見過ごしていた。

しかし次第に、頻繁に待ち合わせていることに気が付き始める。

最低限のマナーを守りつつ、控え目ながらも好奇心に勝てずにさり気なく見ていると、ひょっとしたら恋人同士の待ち合わせなのかと思うようになる。

お互い50代だろうか。同じ職場なのだろうか。これから一緒に出勤するのか。
電車での待ち合わせというところが、悪くない。

そう、皆、それぞれのストーリーを生きている。エネルギーが体内を駆け巡る。
吐く息白く今日も元気にパリを闊歩する。





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