2015年1月24日土曜日

おほけなく




「ママ、百人一首、一位だったよ!」
嬉しそうな大きな声に迎えられる。
声の主は末娘バッタ。毎年恒例の学校での百人一首大会。幼い時は息子バッタや長女バッタと一緒に混ざって、ちっとも取れずに、それでも端っこに座っていた。三人目の運命か、親は一人目で既に全てを伝授したつもりになっているので、末娘バッタには特別に覚え方や取り方を教えた記憶はない。それでも、クラスの大会では奮闘しているらしく、毎年のように一番多く札を取れるらしい。

「二位だったよ。」とは長女バッタ。何かの具合で、去年だけは長女バッタが一位であったが、いつも同じ少年が一位。中学の頃は、今年こそ、と札を覚えたり、練習に勤しんでいたが、高校三年の今は百人一首どころではないのだろう。

皆が覚えていない、マイナーな札を意外に覚えていて、我が家でもかなり健闘する息子バッタはどうだったのだろう。末娘バッタがちょっと声をひそめて、こしょこしょと何かあったらしいよ、と話す。長女バッタときたら、大声で「そうだ。先生が心配していたよ。」と言う。一体、何があったのか。

面倒くさそうに、ソファから身を起して息子バッタが出てくる。余計なことを言って、と末娘バッタを睨む。話を聞いてみると、唸ってしまう。決戦に臨まないために、予選で取った札を全て二人の友達に渡してしまったという。自分の分は一枚しか残さなかったので、教師がおかしく思ったらしいが、誰も何も言わず、息子バッタの友人の一人が決戦に臨んだとか。

一応は授業の一環。真面目に札を取らないとは何事か、と一旦は声を荒げてみる。すると、予選はちゃんと真面目に札を取ったからいいではないか、と返事が返ってくる。決戦には行きたくなかったんだ、とぼっそりと言う。「ボクと一緒のチームになると、札が取れないって、皆が騒ぐんだ。すっごく嫌がられるんだ。」と言う。

超然とした態度が取れないものか。皆に言われても、そんな言葉に反応していては駄目じゃないか。そう思うものの、声には出さない。彼には彼の世界があるのだろう。今の彼には、別に百人一首大会で何枚とれようが、大したことではなく、それより重要なことがあるのだろう。クラスで何番目か、に価値を見出していないことを、とやかく言うつもりはない。真剣に臨まないのであれば、話は違うが、取り敢えず、かるたは真面目に取っている。ならば、まあ、いいではないか。

ヴァイオリンのことで痛いほど分かっている。絶対に皆の前でソロを弾きたくない、ヴァイオリンは誰かのために弾くものではない、と主張され、言葉にならなかったことを思い出す。あれは、一年前か。あれから、少しずつ変わってきている。ヴァイオリンの演奏の仕方も、練習への姿勢も変わってきている。とやかく言わずに、今は見守ろう。

それよりも、何よりも、昔夢であった家族対抗百人一首ができる現実の有難さをじっくりと味わおうではないか。

おほけなく 憂き世の 民に おほふかな
    わがたつ杣に 墨染の袖






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