2022年12月17日土曜日

レクイエム

 




犬仲間の友達から「ちょっと!」と記事の転送メッセージが届いた。添付のリンクをクリックすると、強烈な内容の地元のニュースが飛び込んできて、俄かには信じがたかった。


その日の朝、二人の15歳の男子高校生の遺体が近所の高校生によって森の小径で発見された、というものだった。高校生は一人が二日前から、もう一人は前日から行方不明で家族から警察に届け出がなされていたらしい。詳細は書かれていなかったが、事件性はない模様だった。


ここ一番の寒い日を選んで、二人で一緒に今生に別れを告げることにしたのか。何が苦だったのか。人生まだ始まったばかりの年齢ではないか。それはこれから人生いろいろな苦労はあるだろうが、友達とバカ騒ぎをしたり、恋人と甘い夜を過ごしたり、子供達と笑い転げるなんてことはもうできなくなてしまった。なんて痛ましいことだろう。親御さんのことを思うと、胸が張り裂けそうになった。しかも、その森は、いつもトンカと朝夕散歩をする場所だったから、衝撃もことのほか大きかった。


夕方、トンカといつものように森に散歩に出かける。大地が凍っていて、凍てつく寒さが足元から這い上がってくるような日だった。下草は霜が降りてぱりぱりに凍っていたし、いつもトンカをからかいにくるピーや、ロビンもなりを潜めているようで、森はひっそり閑としていた。


歩みを進める度に、彷徨う二人の子供たちの魂を慰め、鎮めることができたらと、願わずにはいられなかった。ボーイスカウトの子供たちの手による、木の幹で囲っただけの掘っ立て小屋が見えてくると、遊び仲間がいなかったのだろうかと不憫に思えて涙ぐんでしまった。


子供から大人に移行する時期、多感な子供達はこの世の苦悩を全て我が身に背負っているような錯覚に囚われ、辛そうにしていることが多い。森の中でぼんやりとしていると、トンカが弾丸のような勢いで脇をすっ飛んで行った。すると今度は、トンカの熱い鼻面を膝に感じたり、ずっしりとした重みを味わいながらテレビを観たり、本を読んだりさせてあげたかったな、そんな思いに捕らわれてしまった。

周囲には次第に夕闇が迫ってきており、森の中のひんやりとした空気が体中に纏いつき、木乃伊取りが木乃伊になる、なんて縁起でもない思いが頭を掠め、身震いをし始めた頃に、遠くでトンカが立ち止まっている様子が目に入った。トンカの目線の先には、一人の若者がひっそりと佇んでいる姿があった。


一体、何をしているのだろうか。


近付くにつれ、若者はカメラを構えてシャッターチャンスを待っている様子であることが分かって来た。トンカは最初こそ立ち止まっていたが、敵ではなく、獲物でもないと判断したのか、さっさと藪の中に姿を消してしまっていた。若者の目の前には、泣きそうな色をした夕陽の欠片と、暗闇に支配される前の静寂な森があるだけだった。写真好きの私でも、立ち止まって一枚撮ろうとは思いにくい構図と色合い。


「ボンジュール!」


静寂を破る程の大声で声を掛けると、若者は何か囁き掛けてきた。近づくと、とても澄んだ瞳をこちらに向けて、「鹿がいるんです。ほら、3匹あの木の陰に。」と指を3本見せながら静かに教えてくれた。


彼が示した方を見ても、鬱蒼とした樹木があるだけだった。そんな様子を察知してか、手にしていたカメラで撮影した写真を見せてくれた。小型のデジカメだったが、望遠レンズ付きなのだろう、画面には確かに立派な鹿が木々の間に収まっている。青年は、夕日が沈む時間帯、鹿が現れる秘密のスポットであることを教えてくれた。


声を出来るだけ低めて静かにお礼を言って、青年と鹿の空間を邪魔しないように、そしてトンカに鹿の存在を気取られないように、足早に立ち去ることにした。


すうっと魂が浄められた思いがし、それまで震えんばかりだった身体に、優しい温かな思いがゆっくりと巡り始めた。


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