2023年7月19日水曜日

アリドオシ

 





最近、散歩の途中でトンカが模範的なお座りの姿勢をとる場所がある。最初は、いつもの「もう動きません」の頑固な意思表示かと思ったが、どうでもそうではないらしことは、表情を見て分かった。意地っぱりではなく、素直な優しい表情をしていた。


そして、トンカが模範的に座す脇に、小ぶりな広葉樹の低木があることに気が付いた。びっしりと濃い緑の葉で覆われていたが、隙間から小さな赤がちらちらと窺えた。手を伸ばしてみると、意外なことに枝にはたくさんの細いながらも固く鋭い棘が生えていて、進入を拒んだのである。


小さな赤は、さくらんぼよりも一回り小さい林檎のような硬さを持った実だった。そんな実が幾つが枝についているのである。棘を上手に避けて、赤い実をぷつっと枝から失敬すると、待っていましたとばかりに目を輝かせて、それでも直立不動のようなお座りの姿勢を崩さずにいるトンカに差し出した。


トンカは厳かに、その赤い実を口に入れると、大いに満足そうにして、再び歩き始めた。


トンカがこのような行動に出なければ、見落とすことだった小さな赤い実。そういえば、我が家の庭にも似たような枝が生えてきていて、伐採する時に枝に棘があることに驚いたことを思い出した。あれは、こんな可愛らしい赤い実をつける低木だったのか。


さすがのトンカも、赤い実の魅力に、密集した枝の中に首を突っ込んだものの、堅く、細長い棘に行く手を阻まれて、無念と思っていたのかと思うと可笑しくなった。そして、私の助けを上手に引き出した姿に一層の愛おしさを感じてしまう。


同時に、人間は野生の牙をこうして丸くしてしまうのだな、と自分の行為に僅かながらの後ろめたさを感じてしまったことも事実。


こうして、暫くは散歩の途中でちょっとした儀式が楽しめることになった。赤い実の正体はなんなのだろう。ネットで検索してみると、アリドオシなのかもしれないと思われた。しかしアリドオシとは、なかなか乙な命名ではあるまいか。ね、トン。さあ、行こうか。



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