2012年4月30日月曜日

呪縛から解放されて~音楽の練習は幼子が言葉を学ぶが如し


Seitzのコンチェルト第5番第一楽章

これをポケットに入れてしまうことが三日間のスタージュの目標だった。

末娘バッタはスタージュ一日目にして、
4冊目の終了試験で、先日から取り組んでいるVivaldiの協奏曲ト長調 op.3 Nr.3と、お得意のSeitzのコンチェルト第2番第三楽章をリズミカルに弾き、
拍手の渦の中、堂々と終了証を手にする。

辛口の批判は、終了試験では控えるのがしきたり。
だから、ここでも控えよう。
足の爪先から毛の先まで、
身体全体で弾く末娘。
いつの頃から、甘やかな音色を出すようになったのか。

長女バッタは、このところ試験続きで納得する程の練習が出来ておらず、
ここぞとばかりに練習をする。
息子バッタが先に5冊目を終了してしまうことが、やはり気になるらしい。
でも、楽しそうに、活き活きと練習している彼女を見ると、
こちらまで嬉しくなってしまう。

一方、息子バッタ。
前回の練習で、
第二楽章のテンポの長さに痺れをきらせ、
ついつい音符を短縮し、情緒などあったものではない弾き方を指摘され、
それに対して、ぼんやりと反応がないことに傍で見ていた私が切れ、
ガツン、と言ってしまう。
と、大粒の涙。
あの涙は意外で、それこそ想定外。
本人は、自分の拙さが分かっており、分かっていても出来ない辛さを感じていたとき、
無反応という仮面によって、自分をガードしていたに違いない。
それを、母親が仮面を無理やり剥がそうとしたことでの涙、と見る。

スタージュの間は、
相変わらずがむしゃらな練習などせず、
空き時間には、バイオリンの先生の幼い子供達や、
友達とボール遊びやトランポリン。

なんだか頼りなし、と思うが、
それでも、次回は5冊目終了試験の予行練習とか。

みな、着々と進んでいる。

別にバッタ達と比較するつもりはない。
が、いつも彼らに言っている、「目標」の設定、そして実現の為の弛まぬ努力。
それが、どうも実践できていないことに歯噛みする。

最後の日には、
頭が真っ白になっていることが分かりながらも、
逸る心で必死にSeitzのコンチェルト第5番第一楽章を練習する。

何故だろう。
頭にはメロディーがしっかりと流れており、
この曲に、どれほどの時間を使い、練習したか。

確かに、これまで毎日の練習はもとより、
集中しての練習がしてこれなかった。

が、今回の3日間で何とかポケットに入れようとの思いがあったのに。

めちゃくちゃな弾き方で、
自分でも分かるほど泣きそうな怒った顔で、
それでも何とか弾き終えると、
アルトを床に投げつけるように置く。

バイオリンの師のマリがにっこりして言う。

「とっても上達したわよ。」

そんなことはない。実際、曲が弾けないではないか。

「さあ、ビバルディの山場の練習をしましょうか。」

ちょっと、待って。先に進まないで。
この曲が終わらなかったら、先に進めない。
この曲をマスターしていないのに、次の曲を手掛けるなんて、とても出来ない。
これまで練習してきた曲を思い出して弾くのさえも、
時として時間がかかり、イライラの原因であるのに、
ましてや、新しい曲に入るなんて。

マリは、いつもの向日葵の笑顔を崩さずに、
一層明るい声で言う。

「音楽を奏でることを学ぶことと、赤ちゃんが言葉を覚えることは、同じことなのよ。
一つの言葉が発音できないからといって、別の言葉を覚えさせないことはないでしょう。別の言葉は発音ができるかもしれない。そして、気がついたら、今まで発音できなかった言葉が発音できるようになるかもしれない。」

天の啓示。

そうか。
Seitzのコンチェルト第5番第一楽章が弾けないからといって、
ここで私のアルトの演奏が終わるわけではない。

そして、
自分自身の幼い時の言語習得について思いを馳せる。

一卵性双生児であったからか、
二人の間で意思疎通ができれば、それで幸せであり満足していたからか、
確かに、我々二人の言語能力は、所謂、通常の水準には達していなかったらしい。
実際、何かを言えば、母親から、皆に分かるようにちゃんと話なさい、と、
いかにも、別の言語から、日本語に言い換えなさいと言わんばかりに注意されたことを覚えている。
「ち」と「き」、「ひ」と「し」の使い分けも曖昧であった。

それが今ではどうだろう。

当時のことを、ここで明かさない限りに於いて、
幼い時に、発音の点で問題があり、
表現力に劣っていたなどと思われないのではないであろうか。

一人で躍起になっていたことに漸く気がつく。
呪縛から解放された思いがする。

まったく、自分で自分を呪縛するとは、何たること。

三日間のスタージュ。
当初の思惑であったSeitzのコンチェルト第5番第一楽章はポケットに入れることは出来なかったが、
呪縛から自分を解放し、新たな意欲、ヤル気、気力が、それこそポケットから溢れんばかり。

マリ、ありがとう!

そうして、にんまりと、ゆったりと、やおらアルトを構え、
今日もSeitzのコンチェルト第5番第一楽章を弾く。


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5 件のコメント:

あかうな さんのコメント...

ご無沙汰してます。あかうなです。クッカバラさんの息が止まるような思いを息が止まるような思いで読みました。すばらしい師をお持ちのようですね。自分の身を振り返ってわが子に無理を言ってたのではないか、と反省しました。あ、私のバイオリンですか。今、バッハのメニュエット2です。でも息子達のバイオリンの伴奏の、あ、ピアノですが、練習を先にしないといけない状況です。子供達の曲が難しくなると伴奏も難しくなるの、当たり前ですね。今は夜なので明日から私も笑って練習に励みます。ありがとうございました。

kookaburra さんのコメント...

あかうなさん!

お久しぶりです。嬉しいなぁ。ありがとうございます。
え?なんですって?バッハのメニュエット2?さぁすが、マッハの様な速さで飛ばしていますね。弦を3本使うので、ちょっと音が濁りませんか?慌てずに、丁寧に。。。なぁんて。楽しむことが一番ですよね。素晴らしいですね。

あかうな さんのコメント...

子供達は何なんだろうな、ってぐらいに軽く弾きますね。何なんだろうね。

kookaburra さんのコメント...

上手に弾こう、とか、ああしよう、とか、雑念がなく、ただ、純粋に、今聴いたメロディを復元しよう、と思うからかしら、ね。

肩に力が入り過ぎているのでは?私なんか、ばりばりに入り過ぎてます。とほほ。

楽しんでくださいね♪

あかうな さんのコメント...

そうですね、子供は何しよう、って考えなく弾いていますね。息子なんか考えなく一音目を出すので『うりゃ~』といつも叱っていますが、それが、まあ、子供なんでしょうね。バイオリンは木なので持っているだけで気持ちが落ち着きます。私、木、好きなんです。
くっかばらさんのアルトも木ですね。