2012年8月31日金曜日

最後の晩の出会い

 
出会いとは、思わずやってくるもの。

広大な英国の寄宿学校を舞台をしたミュージックスクールでの一週間。
朝、昼、晩、それに午前のティータイム、午後のティータイムも合わせ、5回は食堂に皆で集う。
それぞれのスケジュールを抱え、文字通り走り回っているバッタ達や、妹の3人の子供達、そして、彼らをサポートして一緒に走り回る妹や母との貴重な会合の時でもある。

時々、長女バッタが室内楽の仲間たちと食事を一緒にするようになったり、
こちらが驚くほど気の合う息子バッタと妹の長女が、
一緒のオーケストラの授業が終わると、余りの空腹に食堂に駆け込んで先に食べてしまうことはあっても、
大抵、皆で揃って、賑やかに食事をしたもの。

あれは、最後の晩の夕食。
翌日、朝の6時には出発する予定であったことからも、夜のお楽しみイベントのレビューには参加しないつもりでいた。
どうやら、翌日にヒースローまでバスで行き、そこからアムス、香港と経由しつつ台湾に帰る妹も、レビューに行かずに、荷造りをすることにしたらしかった。

漸くコンサートも終え、練習からも解放された午後、
子供達はどうしてもプールに行きたいと大騒ぎし、
彼らが一緒に遊ぶ時間も、次はいつになるかと思えば、
ついつい承諾してしまったので、夕方は慌てて洗濯機を回し、
バスタオルを乾燥機に入れるなどしていて、
気がつくと食堂に行く時間がいつもより遅くなってしまっていた。

それだからか、或いは、最後の晩だからか、食堂はいつになく賑わっており、
いつも9人が揃って座れる場所もない程であったから、
レビューを観に行く子供達と、
部屋に残って荷造りをする親とが別れて食事をする格好となってしまった。

母や妹、そして、彼女の一番幼い4歳になる娘と楽しく食事をしていると、
「ご一緒して良いかしら。」
と、栗色の瞳が穏やかに、声を掛けてきた。

気がつくと、どうやら、隣の一団が出て行った後で、6人掛けのテーブルが空いている。
「勿論。どうぞ、どうぞ。」
そう言うと、彼女は私の真向かいにいた妹の隣に席をとった。
そうして、妹とにこやかに会話を始める。
どうやら、姪と一緒のクラスに、彼女の娘がいて、お互いに知り合いの様子。
気がつくと、私の横に座った旦那の顔には見覚えがある。
そうか。前日のコンサートで合唱をしていた一人に違いない。

妹がうらやましそうに、幼い子供が二人もいるのに、合唱団に加わるなんて、
と呟く。
そうすると、彼は、合唱には子供も参加できるので、皆で参加したのですよ、と応じる。
「そうだ!その手があったのね。来年は合唱に子供連れで参加したら?」
と、私が妹に振ると、彼女は、ふふふん、と笑う。
「じゃあ、誰がオーケストラや室内楽の練習を見てあげるのかなぁ。」
おお。そうか!
妹は、バッタ達にまでプライベートレッスンをつけてくれていた。
彼女の指導のお陰で、なんとか落ちこぼれずにオーケストラでもパートが弾け、
室内楽でもついていけたのである。
今度は、その話を聞いていた妹の隣の女性が驚く。一体、何人の子供たちがいるの?
妹がにんまりとして答える。6人よ。
驚く彼女。
来年は、声を掛けるわ。手伝って頂戴よ。
そう言うと、彼女がにっこりとする。

なんでもない彼女との会話。
それでも、自然で、なんだか波長が合って、なんとも心地よいと感じ始めていた。

英国人らしい英語なので、
ロンドンのどの先生に子供達がお習いしているのか尋ねると、
彼らはドイツからの参加であり、スカイプでレッスンを受けているというので驚いてしまう。そして、この秋からは、インドに行くことになっているという。

ドイツ?
でも、子供達との会話は英語?
どうやら彼女は英国人。ただ、これまでベルギー、フランス、ドイツで過ごしたことから、英語は勿論、仏語、ドイツ語ができるという。そして、旦那がドイツ人。

インドなら、ヒンドゥーを習うことになるのかしら?
それとも、南インド?それなら、タミル語?インドのどこに行くの?

彼女は、ちょっと驚いたらしい。
詳しいじゃない、と。

欧州でインドの話をしても、専門家でなければ、反応はそう期待できないのでは。
でも、アジア人なら、インドはそこそこ知っているわよ、と、さらりと応じる。

気がつくと、隣の母も、目の前の妹も、姪も姿を消し、
彼女の旦那も、二人の幼い子供たちもいなくなってしまっていた。

なんとなく、その場を立ち去ることがためらわれた。
彼女と、もう少し、言葉を交わしたい、そんな思いを感じていた。

どうして、そんな話題になったのだろう。
話の流れは覚えていない。
音楽が心を癒すという話からだろうか。
彼女が、19歳のときに、母親が飲酒運転の車に轢かれて死んでしまったこと、
その時、一年間大学を休んで、
毎日、8時間チェロを弾いたことを教えてくれる。

ジョエル。
そう、彼女の名前はジョエル。
大学院で原発の廃棄物処理について博士論文を書き、博士号を持っているという。
静かな佇まいに、芯の強さを見出し、意外さに驚きながらも、彼女なら、と納得してしまう。

ああ、もう行かなきゃ。

お互いに見つめ合う。
自然と、フランス式の頬に二回のビズをして、別れを告げ、再会を誓う。

彼女のチェロをぜひ聞いてみたいと思う。
彼女の話ももっと聞いてみたい。そして、私の話も聞いて欲しい。

不思議な出会い。
ジョエル。
彼女が勧めてくれた本を先ずは探して、読むとしよう。
そして、その感想を、彼女と分かち合おう。

インドに行ってしまう前に、ベルギーに寄って、母親のお墓を護ってくれる人を探すと言っていたっけ。
お墓を護る。。。
なんだか日本的な考えのようで、
それでいて、きっと、母の眠る墓への思いとは、宗教を超え、世界共通なものがあるに違いない。

ジョエルと彼女の大切な家族の幸せを祈ろう。。。





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