予期していなかった感覚が、その空間に足を入れた途端、襲ってきた。螺旋階段の先にある丸い天井から無数の光の粒が降り落ちる中、身震いする程だった。
9月と思えない寒さで、息が白く見える程だった朝。歴史的建造物を一般に無料公開するという歴史と文化を重んじる当国らしい計らいで、パリは勿論、地方自治体は挙って各地が誇る、通常は門戸を閉じている場を公にしていた。
20世紀初頭に建造された、現在上層階を改修工事中という建物をゆっくりと一周し、親子連れが若い学生バイトに案内されている様子を微笑ましく眺め、表の玄関ではなく、塔の入り口から中に入った時だった。
そこは時間が止まったかのように、大理石の階段がひっそりと佇んでいた。確かめるように階段を上がると、二階には行けないように閉鎖されていて、それでも滑らかに階段は螺旋状に上に伸びており、天井の丸い窓から、光の粒が無数に降ってきていた。
突然、近くに人の気配を感じた。連れ添った歩く人影。引き込まれるように建物の中に入り込めば、長く延びた廊下にも、秋の日差しが植木鉢の真っ赤な花びらを透明にしているサロンにも、その人影はあちこちにあった。
遂に私達は過去になってしまったのか!
呆然としながらも、交錯する真剣に討論する姿、笑い合う姿、ふざけ合う姿、悩み合う姿を目で追う。
散り散りになった仲間を思い、I miss usの言葉が口から洩れた。
外に出ると眩しい程の太陽と透明な青空が広がっていたが、肌を刺すような冷たい風は何も告げてはいなかった。
秋だけがそこにあった。
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