2011年9月30日金曜日

夏の終わり



「ママ、これなあに?」

長女の素っ頓狂な声。日曜の夕方のこと。外から帰ってきた彼女は、片手に小さなビニール袋を持っている。正確には、指で摘まんでいる。

「郵便受けに入っていたの。」
。。。
「ねえ、まさか、犬の糞じゃないよね。」

そのまさかのまさか。仰天。
ビニール袋は通りでどこにでも手に入る犬の糞の始末用。散歩をする犬が用を足しても飼い主がちっとも責任を持たないことから、通りは大変なことになっていた。そこで、数年前から自治体が対策として通りの各所に犬のトイレを設けることにしている。トイレといっても小さなスペースを丈の低い柵で囲ったもの。さながら公園のお砂場。そして、そこには通常、我が家の郵便受けに入っていた、小さなビニール袋が備え付けられている。

常識のある飼い主であれば、飼い犬に備え付けのトイレで用をさせ、ブツをビニール袋に入れ、自分の家に持って帰って処理する。人によっては、通りのゴミ箱に入れてしまう場合もあろうか。しかし、他人の家の、しかも、郵便受けに入れることはあるまい。

最初は信じられないとの思いで呆然とするが、この異様な状態でバッタ達を怖がらせたりしてはなるまい、と、恰も何でもないことの様に、あら変ね、といって娘から取り上げ、さっさとゴミ袋に密封し、廃棄処分とする。

その間も、頭の中は目まぐるしく動き、一体誰が、何故この様な、と怒りよりも、見えない相手に恐怖を感じる。

情けないことに、まったく完璧で潔白な人間ではない。
ひょっとしたら、と思われる人々の顔が次々に浮かぶ。我が家の庭の木が茂り過ぎており、至急何とかして欲しいと煩く言ってくる隣人か。或いは、先日引越ししたばかりの別の隣人が、バッタ達の練習するバイオリンの音がうるさいと言ってきているのか。はたまた、毎朝車で見かける犬を散歩している男性か。

と、隣では娘が犬を飼っている友人達を一人一人思い浮かべているらしい。あの子かな、いや、あの子かな、と言っては、違うよなぁ、と呟いている。

まさかお友達であるわけがないわよ、と伝えながらも、何か怨まれることをしたのかしら、と思ってしまう。いや、まさか。

あれから二週間。一時のことであるように願いつつ、臭いものには蓋よろしく、忘れようとしていた。

ところが、である。今度は、ご丁寧に我が家の玄関前に、両手に抱えんばかりの量が落ちているではないか。

あまり思わしくない方向に進んでいる。誰であれ、敵意を感ぜずにはいられない。何らかのメッセージ、しかも悪意ある無言のメッセージを体中に感じながら、重い足取りで家に帰る。

「きっと、頭のおかしい人がいるのよ。」

そんな風に切り出してみた。と、一番打撃を受けていると心配していた長女が、

「そんなんじゃなくって、きっと親から犬の散歩を言いつけられて子供が、めんどーくさいって思って、イタズラ心もあって、家の郵便受けに入れたんだよ。」

と、ちっとも動揺していない様子で自論をこともなげに告げる。

「え?ああ、そっか。でも、じゃあ、今日、玄関前にあった、あれは何?」

今度はバッタ達が揃って、あれは別物、だけど、よくある無責任な飼い主の仕業、という。

そんなものか。
色々と考え、悩んでいたことが嘘のように、心が晴れ渡る。しっかし、我が子ながら、なんと強く、そして何と楽観的なのか!打たれ強いというべきか、単純というべきか。大いに救われる。いや、本当に、実際そんな単純なことなのかもしれない。背後にある敵意や悪意など考え始め、怯え、怒りに震えていたが、実はそれは妄想であって、自分で自分の首を絞めていたのか。

まったく何もなかったかのように、いつもの様にふざけ合いながら、最近我が家で大流行の生春巻きを自分達で作っては頬張っているバッタ達の様子を見て、鼻の奥がツンとする。外では夏の終わりを謳歌すべく鳥達がしきりに囀っている。。。




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皆様からのコメント心よりお待ちしております。

2 件のコメント:

木蓮 さんのコメント...

子どもは人生経験が少ない。隠された敵意や悪意のそら恐ろしさが身にしみていないともいえるわけで、だからこそ、単純で大胆な言動ができるのだろう。

どちらが良いとか悪いとかではない。彼らと共存することで、大人や社会が、真や善や美を「無邪気に」求めるエネルギーに満たされる。だから、子どもを大切に守り、育くむんだよね。

まったく動揺していないかの長女ちゃんは、もしかしたら、お母さまの胸中を思ってそう振舞っただけかもしれないし、クヨクヨを経て妄想と断じている一過程なのかもしれない。子ども社会にも悪意や敵意はあるものね。

ただ、子どもは純心、とは言いきれないけど、子どもは、人の善意を信じる力にあふれてる。理性ではなく、感性で信じるんだよね。だから、強いな、と思うし、そんな彼らに応えたいと思う。

バッタちゃん達に乾杯!

kookaburra さんのコメント...

木蓮さん

素敵なコメントありがとうございます。

はっとさせられました。

これからも、新たな見方で示唆に富むコメントお待ちしています。