2012年2月16日木曜日

異国の地に生きる


「グワッ!」
鋭い声を浴びせられる。
いきなりのことに呆然。

県庁の入り口でのこと。

アラブ系の青年。
そして、その後に数人の若者達が
どやどやと出てくる。

後ろの若い女性が
仲間のとった行為を笑っているから、
そう悪意はないのだろう。

県庁といっても、
ここは運転免許書や
外国人の滞在許可書発行センターであり、
いつ行っても酷く混んでいて、
何時間も待たねばならず、
機嫌の良い人を探すことのほうが困難。

それでも、
不意打ちをくらい、
若者のやるせない憤懣の思いを
一手に受け止めてしまったので、
それをどう浄化しようかと、
鉛の心を引き摺り
持て余してしまっていた。

案の定、
列は長く、
幼い子の泣き声が響いていた。

昨年の11月には申請していたので、
発行完了通知を待っていたのだが、
それを受け取る前に、
仮滞在許可書の期限が来てしまっていた。

ふと不安に陥る。
離婚をした外国人の滞在許可書の取り扱いを考えてみる。
フランス人の子供の母親であることで、
問題なく滞在許可書は更新になるのか。

周りの男女も、
何やら不安げな面持ち。

一体、
何故彼らは、自国を捨てて、フランスという異国の地に足を踏み入れたのだろう。
自分達を守ってくれる国を捨ててまで。

いや、
守ってくれない国もあろうか。
そんな国から逃げてきた人もいようか。

職を求めて。
生活の安定を求めて。
夢を求めて。

日本という国を出ることで、
憂鬱なる異邦人となり、
沢山の書類を揃え提出し、
滞在許可書を申請し、
途方もなく長い間待たされねばならない。

帰ろうか。

異国の地に留まることは、
その地に強烈なる思い入れがなくてはなるまい。

こうして、
数年に一度、
踏み絵のように、
更新を申請し、
数十年来の納税者であることなどお構いなしに、
初めてこの地に足を踏み入れた人々と恰も同じ扱いを受け、
長い間待たされねばならない。

帰ろうか。

漸く順番が来る。

相手の女性は肌が濃く、
アフリカ系の出身らしい。
綺麗な真っ白な歯が印象的。
こちら側から、あちら側に移ったのだろう。

こちら側の痛みを知っているからか、
対応は笑顔が絶えず、
何より爽やか。

馬鹿馬鹿しい話ながら、
これだけ、そう、一時間も待たされて、
もらったのは、一枚の数字の入った紙切れ。

その数字が掲示板に表示されると、
漸く、正式に対応してくれる窓口に行く仕組みになっている。

今度はゆっくりとベンチに腰を掛ける。

水曜だから、
お昼にはバッタ達が帰ってくる。
早く終わったら、
近くのスーパーで買い物をして行こうか。

快適な外国人向け滞在許可書発行センターを思い描いてみる。
効率的で、機能的で、友好的な雰囲気の
明るさに満ち満ちていて、希望の感じられる場所。

しかし、
どの政府にしても、
簡単に外国人の滞在を許可はできまい。
現にテロリストの問題がある。

これは、仕方のないことなのであろう。
そんな風に思っていると、
掲示板が順番が来たことを告げる。

窓口の女性は、
生まれた時には既に、
あちら側にいた人。

非常に事務的に、
滞在許可書は現在作成中なので
今、顔写真さえ持っていれば、
新たに3ヶ月期限の仮滞在許可書を出すという。

たまたまお財布に入れていた、
身分証明書用の顔写真が役に立つ。
なんでこんな写真を入れていたのだろう。
とにかく、救われる。

不安な面持ちの人ごみを掻き分け、
外に出ると
どんよりとした曇り空。

スーパーには寄らずに、
真っ直ぐ家に行き、
圧力鍋でご飯を炊き、
長ネギ、人参、ひき肉入りの麻婆豆腐を作る。

1220分。
末娘バッタがそろそろ帰る時間か。

顔を見て会社に戻ろうか。
いや、タイムアップ。

鞄をつかんで、外に出る。
グイっとアクセルを踏んだ時、
サイドミラーに
末娘バッタの茶色いオーバーと
縄跳びを持った手が見える。

さあ、お帰り。
熱々のご飯が待っているよ。
ママは、一仕事してくるからね。
じゃ、夜にね。


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2 件のコメント:

  1. あかうな17/2/12 15:53

    写真持ってて好かったですね。外国に住んでいるって強く思う瞬間ありますね。私もここでは戸籍というものがないですね。あまり考えたことがないけれど異国にいるんですね。クッカバラさんとまらないエンジンだ。

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  2. あかうなさん

    もうすっかりそちらで根を生やし、しっかりと両足で踏ん張っていらっしゃるのですね。あかうなさんにとって、外国に住んでいるって強く思う瞬間って、文化的な障壁にぶつかった時などでしょうか。それとも、味覚、でしょうか。

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