2012年2月25日土曜日

息子バッタの夢


 
気がつくとすっかり彼のペースで、
パリの区役所のパスポート申請窓口に
バッタ達と彼と一緒に佇んでいた。

前夜、パパが迎えに来ても起き上がれなかった長女バッタ。
突然の腹痛に呻き苦しむ彼女の姿に、
強引な彼も長女バッタを残し、息子バッタと末娘バッタをだけを連れて行く。
とにかく、翌日の区役所での約束の時間には連れて来て欲しいと念を押して。

その晩、どんな時間を私と長女バッタが過ごしたかは、
ここでは割愛しよう。

翌朝、6時半に家を出る時、
漸く落ち着いた長女バッタ。
少し眠ると言うので、一人残し出社する。

バッタ達のフランスのパスポートの更新の時期。
どうやら必要書類は日本のパスポート申請よりも多く、
離婚家庭が多いからだろうか、
いたって複雑になっている。

パパは子供達のパスポートにパリの住所を使いたがっていた。
しかし、実際問題、子供達は大半は私と一緒に住んでいる。
裁判の判決だって、そうなっている。
が、
彼の思考回路はちょっと普通とは違うのだろう。

自分(達)にとって都合の良いように、
法的にも問題なければ、
あらゆる手段を使ってでも、
既成事実をひん曲げてでも、
やってしまおう、やってしまえる、
と考えるタイプ。

そして、事実、
真っ青で苦しむ長女バッタを車で連れて行くや、
私にも同行を依頼する。

最初は、
あまりに具合の悪い長女バッタを思ってのことかと考えていた。
が、
駐車場から区役所に行くまでの数メートルで、
もしも何か聞かれたら、
隔週で子供達が両親のもとを行き来していること、
私が子供達がパリに住んでいることを了解していること、
パパとの関係が良好なこと、
などなど、うまく言って欲しいと言われる。

そうか。
そう来たか。

しかし、
どうして彼はこういう人なのだろう。

バッタ達の前で、
彼らのパスポート申請という重要な行為に対し、
一体、それを支援しない親がいようか。

その日は珍しく晴れていて、
漸く回復しつつある長女バッタ、
気がつくと私の背に追いついてきた息子バッタ、
ぴったりと手をつないで隣を離れない末娘バッタ、
そして、嬉しそうに、誇らしげにしている父親、
なんとも、うまくムードに乗せられてしまっている自分を感じつつも、
まあ、仕方ないな、と思い始めてもいた。

彼らしい、
そうとしか、言いようがない。

区役所の入り口で、
彼が嬉しそうに言う。

知っているかい?君の息子は将来外交官になりたいらしいよ。
それがね、どうしてだか分かるかい?
外交官ナンバーの車を運転すれば、どこでも駐車できるし、
ある程度の違反は問題視されないからだってさ。

ぎょっとする。
私にはエンジニアになって、日本とパリを数分でつなぐ超スピード旅客機を作りたい、
と言っていたのに。

外交官という仕事に就きたいのであれば、
その志や天晴れ、と言いたいところだが、
なんたる動機。

しかも、それを嬉しそうに語っている父親。

呆れてものが言えない。

そうか。
息子よ。

朱に交われば赤くなる。

お前は、そうやって、父親と同じ道を歩むのか。

心が揺らぐが、とにかくも、区役所に来ている。
さっさと済ませてしまおう。

フランス人でもあるバッタ達のパスポート申請。
なんと、
私が異邦人として感じた非効率的さが感じられて、何やらほっとする。

そうして、母親の私のパスポート、そのコピーが必要なことが判明。
慌ててコピー機に走る。
もしも、と思い、バッタ達の身分証明書も持参していたが、
それも必要であることが判明。

要領の悪さは、実は異邦人向けの嫌がらせではなく、
フランスのアドミニストレーションの手際の悪さであると再確認。
こんなことを知ることも、悪くはない。

しかし、
私がいなかったら、どうしていたのだろう。
私がバッタ達の身分証明書を持ってこなかったら、今頃どうなっていたことやら。

ほっとした表情の彼。

小一時間後、解放され、
冬の太陽が明るく射す通りに出る。

調子の良い息子バッタには、
一度ガツンと言わねばなるまい。

でも、きっと彼だって、パパと楽しい時間を過ごしたいに違いない。

10ユーロもするカフェを飲みながら、
フーケで何故サルコジが今回再選されないかのレクチャーを受けたと言う。

末娘バッタは、ちっともつまらない会話で面白くもなかった、と
鼻を鳴らす。

パパの話は、やっぱり知的好奇心をそそられるものであろうよ。
息子バッタよ、
それが全てとは思ってくれるなよ。

そして、
末娘バッタよ。
パパの話にも、ちゃんと耳を傾けるんだよ。
パパの知識を上手く利用するぐらいになるんだよ。

親の悩みは尽きない。。。


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6 件のコメント:

  1. あかうな27/2/12 16:57

    なんともたくましいバッタ君ではありませんか。それにしてもパスポート、無事に更新できてよかったですね。私の住んでいるところでは、パスポート申請、本人じゃなくてもOKだし、パスポートを取りに行くのも本人じゃなくてもいいんです。サインももらってからあとで書き込む。。。なんか、え???これでいいの???って感じです。一度なんか、日本のパスポート申請の時には蹴られた(!)写真、現地のパスポート申請では全然OKでしたん。

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  2. こんにちは、あかうなさん。

    その国のパスポートを与えることで生じる責任の重さの違いなのか、認識の違いなのか。或いは不法取得者の有無の違いか、なかなか興味深いお話ですね。

    でも、あのぉ。日本の大使館でバツを出された写真を別の国で使用しちゃうなんて、あかうなさんたら。びっくりです。それにしても、その国のパスポートへの国際的信頼性なんて指数があれば、ちょっとヤバそうですね。フランスは超厳しい審査があるので、恐らく、指数は高いのでは。日本より上だと思います。

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  3. あかうな28/2/12 16:29

    いやぁ。たまたま申請が重なって、同じ写真を用意していたのですよ。多分、現地のパスポートを先に申請して、日本のパスポートを申請したんでしょうか。。。子供がまだ赤ちゃんで、ぐっすり寝ていたので写真を新たに撮るときは苦労しました。なんか、そんな時はあせって、高くても払っちゃいますね。写真代。。。

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  4. そうでしたか、あかうなさん。でも、あのぉ。寝顔の赤ちゃんの写真で申請?まさかね。日本側で蹴られた理由は?耳が隠れていたとか?フランスのパスポートは今は指紋もデジタル化して保存されるのですよ。テロ対策とはいえ、かなり物騒ですよね。そちらは、大らかな感じで羨ましいです。

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  5. あかうな29/2/12 03:26

    顔の大きさ、割合です。まったくばっかみたい!!です。しつこくてすみません。。。

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  6. あかうなさん。

    むう。
    お顔の大きさではなく、写真に占めるお顔の比率の問題ですよね。

    赤ちゃんはそれでなくてもお顔が大きいので、ちょっと大変ですよね。

    ただ、そのへんが日本のお役所の杓子定規的ところですよね。何が原因で規制が作られたのか、が忘れ去られ、規制のみが大威張りで一人歩きしてしまう。融通が効かないんですよね。特に、異国にある日本のお役所に、その傾向が強いかもしれません。ちょっとした気負いとか。

    ふふ。勿論、自分自身のことも十分意識して書いています。私はお役所ではないですが、日本語や文化、などにはうるさいですもの。

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