2012年2月27日月曜日

別れの時



親の背を見て子は育つ、とは本当かもしれない。

両親が接客業だからか、
或いは、もともとの彼らの性格からくるのか、
お客様をお見送りする時は、お車が見えなくなるまで手を振ったり、
お辞儀をする。
友達とて同じこと。

このことはしっかりとDNAで受け継がれているのかもしれない。

我が家にくる方々は、
玄関から庭を通って門を出るまで、
或いは、その姿が通りから見えなくなるまで、
バッタ達や私から見送られることになる。

あと一週間、冬のバカンスが残っているバッタ達。
今週はパパの住むパリ。

このところお役所関連で縁付いているが、
末娘バッタの日本のパスポートがこの夏に期限がくるので、再発行の申請をすることに。
バカンス中でもあるし、パリにいるので、朝のラッシュが収まった頃に彼女をピックアップすることに。

初めの数回こそ、
彼が住むパリのアパートに行くことは勿論、
そこにバッタ達を連れて行くことは、胸が引き裂かれんばかりの至難の業であった。

いや、今でも、大して変わりはない。

約束の10時半ぴったりにアパートの前に車をつける。
予め聞いておいた門のコードを押し、扉を開け中に入る。
と、末娘バッタが飛んでくる。
きっと、窓から、今か、今か、と覗いていたに違いない。
息を弾ませている。
5階から階段を駆け下りたのか。

ちょっと風邪声。
二日しか会っていないのに、久しぶりに会ったように思われる。

いつもは、お姉ちゃんやらお兄ちゃんに助手席を奪われてしまうが、今日は一人。
それでも、遠慮がちに、前に座って良いか、と聞いてくる。
長女バッタからお願いされていた彼女のノートやら、
息子バッタの忘れ物の袋を手渡して、
車を出すと、
アパートの上の窓から、しきりに誰かが手を振っている。

5つになるドミフレール。

幼稚園生の彼は、いつもはベビーシッターさんと一人のところ、
今回はバッタ達がいるので大喜びとか。
長女バッタは英語の講習会に、
息子バッタはバドミントンの練習に朝から出てしまっていたので、
どうやら末娘バッタが、彼のお相手をしていたらしい。

風邪声ながらも、鼻にかかった甘え声で、色々とおしゃべりをしている末娘バッタ。

幸運なことに、大使館の前の路上駐車場が、我々を待っていたかのようにぽっかりと空いており、日本大使館の手際の良さと、お互いの信頼感が感じられる心地よさとを同時に味わいつつ、申請はあっという間に済んでしまう。

先週、フランスのパスポート申請に小一時間かかったこともあり、
これには末娘バッタも驚く。

ね、日本は、日本人としてパスポートを申請する人々を信頼しているから、必要書類も少ないし、こんなに早いのよ。

うれしそうに末娘バッタが頷く。

そうして、ひと時の彼女とのデートの時間はあっけなく終わりに近づく。

快適に車を走らせ、
またもとのアパートの前に車を停める。

手を握って、大きな瞳をぱちぱちとさせ、ふっと顔を寄せてビズをする。

おいおい、まるで恋人同士じゃない。

観念して外に出てからも、
汚いであろう助手席の窓ガラスに口を寄せ、ビズ。
そして、小さな細い手をぴったりとくっつけて、離さない。

これでは、車も出せない。

ふっと手を離した隙に、
車をスッと出し、手を振る。

末娘バッタは、その場から離れない。

ほら、早くアパートに入りなさい。
ほら、
ほら!

そう思いつつ、車をゆっくりと前進させ、バックミラーで末娘バッタの姿がどんどん小さくなっていくのを確認する。

それでも、彼女は動かない。

慌てて窓を開け、左手を大きく上げる。

彼女の手も上がり、やがて見えなくなる。
車は、もう別の道を走り始める。



にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援してくださると嬉しいです。
皆様からのコメント楽しみにしています。

2 件のコメント:

  1. あかうな28/2/12 16:31

    。。。泣きました。。。
    くっかばらさん、どうぞ安全運転を。

    返信削除
  2. 。。。ありがとうございます。。。

    返信削除