2013年11月4日月曜日

ロウソクの火の下で






「ママからお願いされたもの、みんな買ってきたよ。」

この夏、あれ程パパと喧嘩をしたのに、
どうしたことか、バカンス最後の週末をパパ達一家と小旅行に行くといって驚かせた息子バッタ。

夫婦喧嘩は犬も喰わぬとは言うけど、親子喧嘩もそうなのかしら。
息子バッタは、週末だけなら我慢して良い子になれると言う。
父親も満更でもないらしく、にやにやしている。

親子、仲が良いことに異存はない。
一方、娘たちは学校が始まる前の週末だからと、
口実なのか、本音なのか、我が家に残って旅行には参加しなかった。

夕方アムステルダムからパリに到着する電車を駅まで迎えに行こうか。
そう思わなくはなかったが、
バカンスの最終日曜日は渋滞すると相場が決まっている。
しかも、一人でRERに乗って帰ってこれる年齢に達している。

彼の誕生日だから迎えに行ってあげたいとの親としての思いと、
14歳になるのだから、一人で帰れるだろうとの、これまた親としての思いとで
気持ちは落ち着かない。

が、随分前に、誕生日には粗塩と小麦粉を練り合わせた生地で鶏を丸ごと包み、長時間に渡って蒸し焼きにしたものをリクエストされていたことを思い出す。
確か、焼き上げるのに4時間は掛かる。生地を手でこねる時間も合せると、お迎えに行っている暇はない、と、意外にもあっけなく自分の中で割り切れてしまった。

粗塩1キロ、小麦粉1キロ。
手当たり次第のハーブを混ぜて、ボールで捏ね回す。
案の定、通常サイズのボールでは混ぜる前に粉が溢れてしまう。
この料理を作った一昨年の夏には、どのボールを使ったのか。
記憶なんてあるはずがない。あの時は二羽分作ったというのに。

思い切ってシンクに入れて練り始める。
想像以上のハードワーク。

エシャロット3本をざく切りにし、
生姜を5cmほど千切り。
ザラメと醤油、隠し味にミラベル酒を混ぜ、
鶏のお腹にある空洞に流し入れる。
すかさず、首筋の皮を引っ張って紐でしっかりと結わき、
お尻も楊枝で留めてから、紐を巻く。

皮には、事前にたっぷりの醤油とオリーブオイルを擦り込んでおく。

アルミで何重にも丁寧に包み、
ジュースがこぼれ出ないように工夫する。

今度はその小包さながらのアルミで包まれた鶏を、
先程の生地でくるりと包む。
小麦粉粘土の要領なのだが、
どうもすっきりとした出来栄えではなく、
どでん、とした塊が出来上がる。

先ずは250度の熱いオーブンで1時間。
暫くするとハーブの香りがキッチンを包む。
今度は160度に温度を下げて3時間。

あらあらと時間は過ぎ、
息子バッタを最寄りの駅まで迎えに行く時間となる。

パリ到着時刻から凡その概算で弾き出した時間。
しかし、一体、彼らはちゃんと定刻通りにパリに着いたのか。
それぐらいの連絡があっても然るべきはあるまいか。
が、まあ、いいか。
息子バッタは携帯を持っていないし、それこそ、何か問題があれば、父親が連絡をしてこよう。

予想していた時間を15分回ったところで、
駅から地上に上がるエスカレーターから一気に弾き出された集団の中に、
息子バッタの姿を認める。

こちらに気が付いたのか、どうか。
すっかり暗くなった寒空に、にこりともしない表情でこちらに向かってくる。
ティーンエイジ。
そんな年頃なのか。
小さく溜息が漏れる。

突然、助手席に転がり込んでくる。
「お帰り。」
言い終わるよりも早く、首脇に鼻が押し付けられる。
「寒かったよ、アムスは。」

車を飛ばして我が家の前に着くと、
外灯が煌々と玄関を照らし出している。
扉からは二人のバッタ達の顔が覗いている。

お風呂にする?
ご飯にする?
蒸し鶏は丁度良い頃合いに出来上がっている。

「待って。それよりも先にスーツケースだよ。」
そう言って、大きな袋を取り出す。

長女バッタがリクエストしたビスケットの名前が実は違っていたから、
なかなか見つからなかったと、入手の困難さを手柄話のように始める。

「ママの大好きなスペキュロス。」
大きな分厚い板のようなビスケットが二枚、手渡される。
そして、大き目なシロップ入りストロープワッフルがぎっしりと重なった小袋、
シナモン味の小粒なペパーノートンが一杯詰まった袋。

ふふん。
彼なりに気を遣っているのか。
一人抜け駆けして遊びに行ったことで、ちょっと引け目を感じているのかな。

夕食の席では、麻薬と売春が合法化されている国として、赤線地区はどうだったのか、と長女バッタが息子バッタに質問している。
パパのところのチビ君も一緒だったから、怪しげな場所には行かなかったと言いながらも、当地はドラッグの匂いが酷かった、と。

麻薬の匂い?
知らないのに、何故分かる?

末娘バッタは目を白黒させながら、マリファナや娼婦に関する兄、姉の話を聞いている。

驚くことに、叩いて小麦粉の固い殻を壊すことは大いに時間が掛かったが、
中から現れた身は、骨から崩れる取れる程の柔らかさで、
それこそ、とろける程の美味さ。
気が付いたら、4人で一羽を平らげてしまっていた。

デザートはどうしようか。
5つのメニューの中から、好きなものを選んでもらい、
その品がなかったら、そこでアウトとしよう。

そんなつまらない提案は無効、と長女バッタは騒ぐが、意外に自信はあった。

先ずは、ガトーオショコラ。
そしてマロンムース。「モンブランでしょ」と、横やりが入る。
パンナコッタ。
マンゴムース。
最後に、バナナスプリット。

「バナナスプリット!」
息子バッタが大声を上げる。
ビンゴ。

そりゃあ、チョコレートが焼き上がる香りはしないし、
マロンムースを作るにも、我が家の庭には栗の木はない。
マンゴは、嫌いじゃないけど、大好きな果物ではないと、つい先日息子バッタから打ち明けられていた。
ここで、パンナコッタのリクエストとなる心配が出るが、テーブルには美味しそうなバナナが飾られている。これを見たら、誰もがバナナスプリットをリクエストしよう。

バニラアイスをたっぷりとグラスに盛りつけ、
薄い櫛切りの真っ赤な林檎のガラと、
黄緑のキーウィ―の薄切りを飾る。
バナナを形よく盛って、
ホイップしたクリームを飾る。
溶かそうと思っていたチョコを、ままよ、と削ってトッピング。

長女バッタが一本のロウソクに火を点けて、
皆で大合唱。

お誕生日おめでとう。





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