2016年8月14日日曜日

ボホールの海









海が恋しかった。
肌を突き刺す程冷たいBretagneの海も、拍子抜けに暖かいPerpignanの海も、遥か遠き昔の勝浦の海も、全てが恋しかった。
砂浜を大声で駆けたかった。
波の中を潜りたかった。海水で鼻がつんとする、あの瞬間が恋しかった。

手を伸ばせば届くのに、恋しがるだけで手を伸ばしていなかった。

17歳の時の友人が、その願いを叶えてくれた。
「どうして」とか一切聞かずに、今までずっとそうしてきたかのように、島へのフライトとホテルを二人分予約してくれた。


マニラは土砂降り。雨季の時期に訪れた友と一緒に島に行ってくれる彼女に申し訳なく思う。三時間前のフライトが立て続けに遅延で、新たな出発時刻さえ発表されていない中、どんどんとチェックインを終えた乗客が入ってきて待合室はパンク状態。

時刻は午前10時。寝ている人もいなくはないが、ピザを食べたり、大きな肉まんを頬張ったり、お肉のソテーと御飯を食べていたりと、軽食を楽しむ姿が目立つ。しかし、いったい、これは彼らの朝食なのだろうか。

フィリピンでは7回食事をするのよ。
友人はこともなげに言う。久しぶりの真っ白でふんわりとした肉まんの姿に歓声を挙げた私を見て、早速一つ買ってみようと列に並んでくれた友人は、次にはフィリピン人が愛するお菓子の一つ、「Ensaimada」をゲットしてくれていた。一瞬、モンブランかと思わせる容姿。丸い甘いふわふわのブリオッシュに塩味のチーズのスライスがトッピング。

奇跡的にも私たちの飛行機は予定時刻にボーディングの呼び出しがなされ、雨の中、航空会社が用意してくれた傘を差して機内に乗り込む。水溜りを避けながらも、サンダルを履いて来て良かったと思う瞬間。

あの島は他が雨でも避けて通るんだって。
矢張り友人はこともなげに言う。何度も見た天気予報は連日雨模様。雨は降っても、氷雨ではない。温かな、シャワーのような雨に違いない。雨に打たれるのも悪くないではないか。





島についてみると、友人の話の方が確かであることが分かる。むんとした熱気が骨の芯まれたバスルームと広いベッドルームに息を飲む。

とにかく海を見ようよ。
競うように水着に着替え、ビーチまで歩いて行く。





どうやら波があるらしい。サーファー向けのビーチなのだろうか。砂浜には打ち上げられた海藻がたんわりとある。波打ち際は砂や海藻で海水に透明感はないが、遊泳区域を示すブイが浮かぶ辺りは心浮き立つエメラルド。そして真っ青な大海が続く。

足を入れると温かい。
人っ子一人いない海にずんずんと入っていく。どうやらかなりの浅瀬が続くらしい。時々、貝殻なのか足に何かが刺さる。先が尖った石を踏む。なんて懐かしいんだろう。ずんぶりと身体を入れて泳ぎ出す。左肩が自由にならないことを思い出す。平泳ぎは無理だし、クロールなんてもっと無理。それでも、遠くに浮かぶブイまで行きたかった。

と、波をざんぶりとかぶり、思いっ切り海水を飲み込む。波乗りさえ忘れてしまったのか。まさか。

次からは波を待ち受ける。ハワイ、サイパン、沖縄、大洗。当時の感覚を蘇らせる。シドニーでも泳いだはず。さあ、大波がくるぞ。

左腕が上がらないことで、泳ぎ切れないかもしれない、と一瞬思うが、この波なら帰りは追い波を受け、あっという間に浜辺に戻るに違いないと判断。そんなことより、真っ青な大海に向かって、ぐんぐんと泳ぎたかった。

何度目かの波をくぐって、漸く目の前にさっきから見えていたブイに手を駆けることができる。浜辺に手を振るが、友人は気が付かない様子。海風にうっとりしているのだろうか。帽子も被らずに直射日光を目一杯浴びているなんて。そう思うが、海水からの反射で紫外線を余計浴びているのは私の方だろう。

さあ、余り休んでいると帰れなくなる。次の波で浜に戻ろう。海水は暖かく、波は優しく押してくれる。



翌朝、波は前日に比べ穏やかで、潮が引いているらしい。と、遊泳禁止の赤旗が目に入る。この波で赤?ひょっとしたら、ホテルでこの波なら誰も入るまいと思っていたところ、遊泳者が出たので慌てて旗を立てたのだろうか。或いは、前日は旗に気が付かなかったのか。なんだか変に得をした気分になる。



そう、泳ぐが勝ち。
エネルギーが体中に満ち溢れていく。








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