2016年2月27日土曜日

邂逅









バカンス中の末娘バッタと、彼女の友人を先週オープンしたラーメン屋さんに誘い出す。

豚骨スープを作るために、フランスの豚の頭には顎の部分が欠けているので、隣国から取り寄せる程のこだわりよう。そして、確かに、美味しい。

ただ、どうも並ぶのだけはいただけない。ラーメンは回転が速いとは言うが、食事のために並ぶ、ということに抵抗を感じる。それでも、この味を食べさせてあげたい、と、これまた、思い込んだらまっしぐらの性格ゆえ、寒い中をオーバーの前を開けっ放しのTシャツ姿のティーン二人と並んで待っていた。

と、日本人女性が「あのぉ、」と声を掛けてくる。「ひょっとしたら、○○に住んでいらっしゃる○○さんではないですか」。

同じ世代と思われる小柄な女性に見覚えはない。と、いうことは、昨年アメリカから近所に引っ越してきた女性だろうか。学校や住まいのアドバイスが欲しいとかで、知り合いを通して紹介され、随分親身になって相談に乗ってあげていた。しかし、どうして私のことが分かるのだろうか。FBに写真を載せているわけでもないし。

色んな事が頭を駆け巡る。

私から何の反応も引き出せないことに気が付いたのか、彼女から名乗ってくれる。

5、6年前に一度会ったことのある、いや、実際には、うちに泊まったことのある女性。

彼女も、知り合いから相談に乗って欲しいと紹介された女性。知り合いといっても、末娘バッタのクラスメートのお母さん。彼女の日本人の友人が旦那が浮気して悩んでいるから、相談に乗って欲しいと言われて、面喰ったことを思い出す。彼女のセリフが良かった。

「私は全く経験がないので、どう相談に乗っていいのか分からないので、ぜひお願いします。とっても悩んでいて、かわいそうで、心配なんです。」

そんな話、見ず知らずの人に言うものでもなかろうに。しかも、私は経験者だから、話ができるだろうなんて、なんて失礼な!と思うが、それよりも、一人で悩んで悲しみにひしがれているらしい女性が気になった。確かに、辛いだろうな、と思う。

そこで、連絡してみると、見ず知らずだからこそ話がし易かったのだろうか、彼女自身が驚くほど、色々と詳しく話をし始め、気が付くと、ずいぶんと長いメールのやりとりを頻繁にするようになっていた。

彼女は、誰かに聞いて欲しかったに違いない。でも、変に知り合いだと、なんだか言いずらいこともある。プライドもある。だから、聞き手に徹し、彼女の話をいつまでも聞いてあげていた。

そして、ある日、もうどんなきっかけだか忘れてしまったが、我が家に泊まりに来て、夜中じゅう話をした。その時に会っただけ。それからは、年に一度近況をお互いに連絡し合う程度。彼女なりに落ち着いて、今の人生を謳歌し始めているんだな、と嬉しく思っていた。


申し訳ないことに、私は彼女の話は聞いたけど、彼女の顔はちっとも覚えていなかったということか。

あの時、幼稚園生と未就園児だった二人のお子さんは、小学生と中学生に。あっという間。先週、別れた旦那に赤ちゃんが生まれたと言う。

「一番どん底の時に話を聞いてくれて、本当にありがとうございます。」

どんなことがあっても、次の日は来るし、気が付くと子供達も大きくなっている。


待ち合わせの友人が来たらしく、それでは、と別れる。

次に会った時にも、きっと分からないだろうな、と思う。でも、何かの時には連絡をしてね。いつだって、話を聞くことだけはできるから。

後姿にそっとつぶやく。





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2 件のコメント:

  1. 今の私のあれこれと重なって不思議な話だなぁと思ってよみました。
    かばりディープなお悩み相談でお泊まり会までしているのに、顔を思い出せないなんて(笑)
    だってクッカバラちゃんは記憶力抜群のはず。だって私が忘れてたこともよく覚えてくれていて、そういうことがビッグイベントよりも思い出を生き生きさせるもの。
    あちこち赴任地で悩ましてくれる奥様方は現在形では憎き仇のようだけど、そういえば現地を離れた途端に痴呆症のように名前もなかなか出てこない。
    忘れてもいい話、忘れてた方がいい人だったのかもね。ある一時だけすれ違って何も残らない人というのもあるのかもしれないなぁと、独り合点で読みながら気が楽になりました。
    もちろん悩める人に助けを求められれば応じるけど。

    返信削除
  2. Muffinちゃん、コメントありがとう。

    実はね、逆の立場になったことがあるのよ。
    去年の夏、大学のクラブのOB会で大先輩の奥様に10数年ぶりに会ったのだけど、大先輩と二人でパリの我が家に一週間泊まったことを忘れてしまっていたの。それよりも、何よりも私のことを忘れてしまっていたの。当時はお互いに子供もいない若いカップル同士。あれから、彼らは二人のお子さんを授かって、ロンドン、ニューヨークと駐在になって、それで、、、ある朝、大先輩は都電に飛び込んじゃった。その事実を私は、その事件の一年後に知って、ものすごくショックだった。ここでは詳しく書かないけれど。奥様はそれから一人で子供達二人を育てたのよね。その場には、中学生になったお嬢さんが一緒に来ていたよ。父親の面影も覚えていない彼女。いかに素晴らしい人物だったか、皆が彼女に教えてあげていた。その時、息子さんの話になって、彼女が、私にそっと、息子さんが知能にハンディがあることを教えてくれた。私は本当に声が出なかった。彼女は、旦那との若い時の楽しい思い出になんて浸っている暇なんかなかったんだよね。詳しい事情は全く知らないけれど、一人で勝手に逝ってしまった先輩。それをしっかりと受け止め、子供達を育て上げている彼女。

    同じ瞬間を生きたけれど、その時間が人によって、全く違った意味と重さを持つんだなって、悟った。すごく、悲しい思いになりながら。

    ごめんね。かなりトーンが暗くなってしまったわ。

    そうね。私はMuffinちゃんが忘れちゃっていることも、覚えているかもしれないよね。例えば、飛行機が成田に着く前に、一年ぶりに会う迎えに来てくれている家族を思って、一生懸命お化粧していたMuffinちゃん。鏡よ、鏡。私って美しい?の世界だったよ。それからMuffinちゃんが某国からの見た目のっそりの男性からもらった愛の詩。幾つか、諳んじているな。あんなぼんやりした人から、こんな繊細な詩が紡がれるのかと、驚いたっけ(ごめん。人のラブレターに驚いちゃいけないよね)。Muffinちゃんのところでご馳走になったポーキパインミートボール。このレシピ、今でも私の十八番。なんだか、どんどんと思い出がこぼれ出してきちゃいそう。ふふふ。Muffinちゃんが忘れてしまっていることを、ちょんちょんとつついて、Muffinちゃんに思い出させるってこと、楽しそうだよね。カスタードクリームを作りながら、ぜひおしゃべりしたい!あの甘ったるいけど、とろりとした口当たりが大好きなカスタードクリーム、懐かしいな。

    ではでは、またね。

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