2022年10月15日土曜日

トンカがおばあさんを食べた狼のお腹になるの巻

 




夜明けを探して、いつもの暗闇早朝散歩をしていた。朝露に濡れた下草が心地よく、ひんやりとした空気は爽快。鼻の先が冷たくなり、指先が凍るような日々が数日続いていたが、ここに来て、不思議なことにぬくくなってきている。雨が降る度に秋が深まるはずなのに、とぼんやりと思っていた。


と、トンカが茂みに入って行く様子が感じられた。基本、道路以外ではトンカのリードは外している。好き勝手に茂みに入り込んだり、草原を駆け回ることは日常茶飯事なので、横目で見て、いつもの道を歩いていった。変に待つと、待ってくれるものだとばかりに、調子に乗っていつまでも出てこないことになり兼ねない。


いつもなら、慌てたトンカの小気味よい足音が聞こえてくるのに、いつまでたっても後ろから気配は一切しない。口笛で呼んでも、ちっとも手ごたえがない。まさか別の道を通って森に入ってしまったのだろうか。訝しく思いながら、不本意とはいえ暗闇のこともあり、今来た道を戻り、最後に確認した茂みの入り口まで行ってみた。


いつも通っている道の脇にある茂みだが、これまで一度もトンカは興味を示したこともなく、一体どんな茂みなのかよく見たこともなかったが、入り口は茨でがんじがらめになっていて、かなり奥まで深みがある様子だった。まさか、茨に足を取られたのだろうか?


トンカの名前を呼んでも、茂みからは誰も出てこないし、ひっそり閑としている。と、ちょっと荒い息遣いが聞こえてくる。トンカ、いるのね。体を低くして、携帯の明かりで茂みの中を照らしてみる。暗闇がこんなに恨めしく思ったことは無い。本当に何も見えないのだから。しかし、がさごそとした動きが感じられるので、トンカの存在は半ば確認でき、少しはほっとしてもいた。


一体何に嵌ってしまったのだろうか。考えられうることは、考えたくもないことだが、糞尿の類、食品・食料の廃棄物、動物の死体。


ぐっと体を低くし、這いつくばって茂みの中を覗くと、奥の方でトンカが横になっている様子が見えた。トンちゃん、そんなところでくつろがないで、出ておいでよ。一体何をしているの。


前日に仲良しの成犬ベルと絡み合いながら遊んだ際、どうやら脚をやられたようで、その後びっこをひきながら歩き、終いには蹲ってしまったことを思い出した。やはり足をとられたのだろうか。


と、今度は荒い息遣いが聞こえ、嘔吐、そして、バリバリと何かを食べる音。


最悪のケースなのか、ましな方なのか。


なんとかして別の方法で茂みに入ることはできまいかと周りを良くみてみると、今まで全く気が付かなかったが、そこは煉瓦の塀があることが何となくわかった。煉瓦の塀からトンカがいるところを覗いてみると、バゲットの欠片が見える。誰かが食料廃棄物をここに投げ捨てたのだろうか。


時々、森の中でもボーイスカウトたちがキャンプをした後に、食べ残りのご飯や、手付かずのバゲット数本が放置されていることがある。そんな時には、どう頑張ってもトンカを引き離すことはできず、バゲットの時には急いでザックに詰め込んでしまう。


今、この暗闇で茂みの中へのアクセスが難しく、トンカを残飯から引き離すことは至難の業で、食べ尽くすか、食べ飽きるかを待つしか方法はなくなってしまっていた。こんな時のトンカは、愛らしさなど皆無で、まさに獣となってしまう。


それでも、茂みの入り口に顔をのぞかせ始めたので、その瞬間をとらえ這う這うの体で茂みから連れ出すことに成功した。リードをしっかりと付け、家路を急ぐ。が、どうも足取りが重い。よく見れば、なんとトンカの細いはずの身体が妙に膨らんでいるではないか。いやあ、参った。おばあさんを飲み込んだオオカミのお腹を見る思い。カエルを飲み込んだ蛇、名無しの巨体。


案の定、家に帰っても、でんと床に転がり込むだけで、身動きがとれない模様。時々苦しそうな息遣いをする。得意の俊敏な動きは一切できない様子だった。そして、思い出したように水をかぶかぶと飲む。


トンカよ。気持ちは分からなくもないけれど、有害小動物駆除で毒が置かれている可能性だって皆無じゃないのよ。お願いだから、拾い食いの習慣は止めてね。


その日は、丸一日寝ては水を飲み、水を飲んでは寝ていたトンカ。夕方の散歩の頃には、少しは足取りが軽くはなってきている様子だったが、夕食は控えた方がいいのではなかろうか。


そんな親心を分かるはずもなく、散歩から帰って来て、先ずは掃除をし、それから栗の皮むきなんかを始めた私に、一向に夕食にならないからと、ご飯の時間ですよ!忘れているでしょう!とガンガンと吠えて催促をする。


さあ、トンカは夕食にありついたのでしょうか。それとも散歩の後の心地よい疲れで、大人しく寝入ったのでしょうか。皆さんのご想像にお任せいたします。


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