ばりり、ばりりと小気味よい音を立てて、コナラやクヌギのドングリの傘や実を足元で弾けさせながら森を闊歩する。隣ではトンカが負けずとばかりに、かりり、かりりと賑やかな音を立てて、栗の実を齧っている。
太陽はまだ西の空で薄っすらと輝いているが、そろそろ夕闇が迫ってきそうな気配が森中に満ちている。もうすぐ、暗闇でランプを灯しながら夕方の散歩をすることになるのか。そんな風に思いながら森の坂道を上っていると、やや遠くの栗の木の下に人影を認めた。
キノコ狩りをしているのだろう。8月の思わぬ収穫以来、気を付けてみてはいるのだが、ちっともセップを見かけていない。数日前に雨が降ったので、キノコ達がにょきにょきと目を覚まして姿を現しているに違いない。
姿が段々と鮮明に見えるようになってくると、どうやら青年らしいことが分かり、手には案の定大きめの籠を持っている。すれ違う時にお互い同時に挨拶の声を掛けていた。
「こんにちは!キノコですか?収穫の具合はどうですか?」
「こんにちは!お元気にしていましたか?」
え?知り合いの青年だったのかしら?そう思う間もなく、青年は言葉をつなげた。「森で冬に何度かお会いした方ですよね。鹿の写真を撮影していたの、僕なんです。」
一瞬、わけがわからなかったが、すぐにパズルはぴたりと収まった。嗚呼、ウィッツ!防寒具で頭まですっぽりと包まれていたので、瞳の色だけを覚えていたのだが、そうか、あの時の青年だったのか!
すごく嬉しくなってしまった。トンカにも伝わったのか、青年の周りをびゅんびゅんと歓喜のカンガルー跳びをした。青年が見せてくれた籠には、見事なセップがたっぷりと入っていた。青年の性格を表しているかのように、セップの足はどれも綺麗に削り取られ、丁寧に置かれたと思われる籠の中で鎮座していた。
夏に森で小鹿に出会った話をしたところ、大いに関心を寄せ、「僕も、母と一緒の時に、丁度ゴルフ場がある角で見たんですよ。」と教えてくれた。ひょっとしたら同じ小鹿だったのかもしれない。青年が母親と一緒に森を散歩し、小鹿を認め、二人で一緒に息を殺して小鹿を見守っている様子が目に浮かび、思わず微笑んでしまった。
僕たち、今夜はセップでご馳走です!
セップが綺麗に盛られた籠を受け取った時の青年の母親の驚きと笑顔、そして彼らの興奮した歓喜の声が聞こえてきそうだった。
それじゃあ、またね。
青年に別れを告げると、夕闇の気配が次第に濃くなってく森を、やや急ぎ足で、それでも足元に気を付けながら、セップを見逃さないようにと家路に向かった。
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