鹿の後を追いかけて行っても、森で何かに引っかかっても(大抵はキャンプやピクニックの後の食べ残し)、数分もすれば、いや数十分もすれば、必ず戻ってくるトンカ。そして、必ず待っている私。相互信頼関係が築き上げられたと思っているのだが、一つだけ例外がある。
トンカにとっては会えばたっぷりのおやつをくれるサンタおじさん、私にとっては、トンカがちっとも言うことを聞かなくなってしまう困ったおじさん。おじさんにいつも出くわす場所にくると、トンカはソワソワして立ち止まっておじさんの姿を探し、私の存在はその間すっかり消えてしまう。
以前にも書いたことがあるが、おじさんはポケット一杯にクロケットを持っていて、トンカに出会うと大きな手にいっぱい取り出し、与え続ける。時には、二度目の大盤振る舞いもある。最初から大いに戸惑ってしまっていた。トンカを可愛がってくれていることには、感謝しかなく、お礼を言いつつも、一つだけで結構です、と言い続けて来た。
こういうことは、最初が肝心なのだろう。やめてください、とはっきりと断れば良かった。おじさんは善意の塊であり、トンカは大いに喜んでいるのだから、どうにも困ったものであった。しかし、おじさんに会うたびに、トンカはおじさんしか見えなくなり、いや、現実にはおじさんの持っているクロケットしか見えなくなり、私がどんなに呼んでも効果がない。
一度は、トンカを連れて行きたいのであれば、どうぞお連れください、とまでおじさんに言ってしまったこともあった。その時から、おじさんに会う場所にくると、はしゃぐトンカをよそに、心に錘がつけられたかのように辛く、悲しく、なんでこんなことになっているのだろうかと自問してきた。毎回、トンカがおじさんのところに走って行き、お座りをしてドッグフードを与えられている傍で、トンカにリードをつけ、引っ張って連れ戻す、ということの繰り返しだった。
おじさんは、ちっともこちらの気持ちを分かってくれていないようで、リードで連れ戻されるトンカが名残惜しそうにおじさんを見つめていると、ほらっとクロケットを投げてくる時もあった。そんなことしないで欲しい。やめてください。心の中で叫び続けてきた。
私にも、散歩の途中でトンカの仲間たちに煮干しを振る舞う時がある。それでも、一つだけが基本で、私自身もトンカには一回に一つだけあげている。下手をすると、おじさんのおやつは一回に与える餌の半量ぐらいに相当することもある。
いつかはっきりと断らねば、そう思ってきたのだが、そのいつかが、先日思わぬ格好で起きてしまった。
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