ペルー紀行
第一話 インカの末裔
第二話 マチュピチュを目指して
第三話 真っ暗闇の車窓
第四話 静かな声の男
第五話 さあ、いざ行かん
第六話 空中の楼閣を天空から俯瞰
第七話 再び、静かな声の男登場
第八話 インポッシブルミッション
第九話 星降る夜
街角に佇んでいるリャマを連れた色鮮やかな民族衣装を着た女性たち。大抵赤ちゃんを抱いていて、観光客に抱っこさせて写真を撮らせてあげている。末娘バッタがすぐに引っかかり、大騒ぎをして抱っこさせてもらい写真を撮っていた。観光客相手の商売とはすぐに分かったが、それも良い思い出ではないか。
その後で、クスコの市内ツアーをしている時、現地のケチュア人のガイドの男性に、
「さあ、騙されないで。あれは羊の赤ちゃんさ。」
と言われて、末娘バッタは、えーっとなっていた。その後で、「それから、あの衣装を着ている人々は山岳民族なんかではないさ。仕事着ってことだよ。」と種明かしをされ、今度は私がえーっとなった。
「音楽は最高さ。俺はミュージシャンなんだ。」
そう言って革ジャンを着た肩を怒らせながら歩き、通りで歌っている女性にポンっとコインを投げる。
「買わなくてもいいさ。ただ、本物の見分け方を教えるよ。大体、毎日どれだけの観光客がこのクスコに来ると思う?年間に何枚のセーターが売れると思う?さすがに全てがアルパカの赤ちゃんの毛なわけがないと常識で考えられるよね。分かっていて偽物を掴まされるならいいけど。とにかく見分け方を教えるよ。」
そう言って、絨毯でも、セーターでも、兎に角「ベイビーアルパカ」と言われ、へえっと思っていた我々の目を開かせてくれた。
この調子で、インカ帝国時代の建造物の石積みと、そうでない植民地時代の石積みの違いを教えてもらった。クスコのアルマス広場にあるカテドラルでは、アンデスの信仰を取り入れ、如何にスムーズにキリスト教を広めようとしたか、工夫に溢れている。いや、ケチュア民族の思いが各所に現れている。中でもクイをご馳走に描かれた「最後の晩餐」の絵は余りに有名であろう。しかし、裏切り者のユダの顔がインカ帝国を滅ぼしたスペインの征服者、フランシスコ・ピサロの顔であったことは、ガイドがさらりと口にしたことで初めて知るに至る。そして、地震を治める主として祀られている黒光りするキリスト像。イエスの肌はもともとシナモン色だったが、信心深い人々が家族全員の幸せを祈って一人に一本ずつ蝋燭を灯すことで、煤で黒くなってしまったという。それで、今は全てランプの光にしたとの説明を受ける。シナモンというよりチョコレート色に肌を持つガイドの話は、笑いを誘うサービスたっぷりの内容だが、時に胸を打つ真実がするりと入っている。もともとインカの神殿があったこの場所を、スペインの征服者たちは先住民たちを使って、カトリックの教会に建て直してしまった。
コリカンチャ、太陽神殿。制服者スペイン人たちは、黄金の板、黄金でできた神像など全てを剥奪、略奪。
しかし、ガイドの男性の声には恨みなど一切感じられない。ほら、俺たちの先祖の技術をよっく見て行っておくれよ。そんな感じで解説が続く。歴史とはいえ、残忍な略奪の歴史の延長線上に今がある。その過去を受け入れないことには、今はない。生まれてきた時には既に洗礼されていたから自分はカトリックだとガイドの男はいう。改宗は良いこととはされていない。そう遠くをみつめて言った彼の顔に、その時だけ本音が見え隠れしたように思えた。
クスコのアルマス広場に初めて立った時に、その美しさに心打たれたが、「アルマス」という言葉が示すように、武器・兵器の広場であり、リマにも、プーノにも、アレキパにも、つまりペルーの街のどこにでもある大きな広場の名称であることに気づいた時、ペルーの歴史に思いを馳せ、別の感慨を持って見つめるようになった。
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