2023年8月11日金曜日

森での駆け引き

 





もともと森は人気がないのだが、週末には時々マウンテンバイクに乗った集団や、ノルディックウォーキングとやらで二本の杖をガンガン鳴らして早歩きで駆け抜ける集団や、木の枝を背負ったスカウトの子供達と出会うことがある。ところが、今は何せ国中バカンス一色。一体皆どこに行ってしまったのだろうと思う程、誰もいない。


だからだろうか。このところ、夕方の散歩の折には頻繁に鹿と出会う。出会うという表現が正しいのか、トンカが見つけ出すといった表現が正しいのか。トンカと同じ柔らかい栗色の体躯なので、トンカかと思ってしまうことがある。大腿部の大きさに何か違和感を覚えていると、その傍をトンカが走り抜けることで、鹿だったのか、と分かることもある。


その日は、既に大柄の鹿が軽やかに森の中を横切って走っていく姿を見ていた。トンカは急いで追い駆けていったが、すぐに戻って来た。その辺の判断は、どうやっているのだろうか。トンカが深追いをしたことは、一度もない。いつまで経っても戻ってこない時は、どこかでトンカにとって美味しいものを見つけて、貪っている時である。


そこは森の中でもちょっとした坂になっていて、立派な大木が小径に沿って並んでいる、大いに絵になる場所であった。数メートル先を歩いていたトンカが、右方向を見つめたまま、ぴたっと立ち止まり、その後暫く微動だにしなかった。これはシャッターチャンス到来、とばかりに、数枚撮った。大抵携帯と言えど、カメラを向けるとぷいと歩き始めたり、別方向に飛んで行ってしまうトンカなので、もう少し近距離で撮影したいと、そろそろと近くに寄っていったが、それでも動かない。こんなこともあるのか。近距離で数枚、トンカの横向きの姿を撮影する。


トンカの緊張した姿に、近寄りがたさを覚えたが、どうした、とばかりに歩みを進め、トンカが見つめる方角を見た途端、仰天してしまった。2メートルもしない近距離に、トンカと同じ大きさの、トンカと同じ淡い栗色をした小鹿が可愛らしい顔をのぞかせていたのだから。その小鹿とトンカは、暫くの間じっと見つめ合っていた、ということなのだ。


緊張の糸が張り詰めたような二匹の動物同士の駆け引きは、人間の出現によりぷつりと中断され、一瞬のうちに小鹿は姿を消してしまった。


知らなかったとはいえ、トンカ、ごめんよ。


トンカはそんなことを一向に恨むでもなく、何でもないかのように、いつものように歩き出した。森は思いもよらない出会いに満ち溢れている。



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