2023年8月13日日曜日

千載一遇

 






夜じゅう雨音が絶え間なかった翌朝、空の壮大さを誇示するかのように頭上でたなびく鱗雲が、朝の光を浴びて薄桃色に染まっていた。こういう時に限って、携帯を持っておらず、心のシャッターを切る。


その日は一日中、晴れ間が出てくるようで、急に薄暗くなったり、雨が静かに降ってきたりと、不安定な空模様だった。それでも、いつものように夕方になると相棒のトンカと一緒に森に繰り出す。真夏とは思えない天候ながら、それでも蒸し暑さが一瞬ぶり返したようで、長袖で歩くと、汗がじっとりと出てきてしまう、そんな日だった。


こんな日は、鹿たちはどうしているのだろうか。ところどころで出現している泥濘に足を取られないように気を付けながら、鹿の姿が見えないかと木々の間に目を走らせて歩いて行った。トンカも蒸し暑さは苦手の様で、時々珍しく地べたに腹ばいになって、ひんやりとした土の感触を楽しんでいるかのように、相棒が来るのを待っていた。


このところの雨で、巨大な白いマッシュルームが道端に出現していたが、さすがのトンカも匂いを一度嗅いだきりで、目もくれなくなっていた。変わった種類の茸を見つけると、ついカメラを向けてしまうのは、昔取った杵柄といえば聞こえは良いが、単なるカメラ小僧の習性。出会いはシャッターチャンス、それが信条なのだから、仕方あるまい。


そんなこんなで、汗をかきながらも、時々立ち止まっては写真を撮り、のんびりと森を歩いていたところ、先日小鹿と出くわした場所に差し掛かった。と、目の前の道のど真ん中に、にょきっと生えている茸が目に飛び込んできた。


むむむ。これは、まさか。


手に取ってみると、身がしっかりとしていて手ごたえがある。鼻に持っていくと、何とも言えない芳しい香りが勢いよく頭脳を直撃し、大いに度肝を抜かれてしまった。こ、これこそが、あのセップ様ではあるまいか。


バカンスの真っ最中で、森には人っ子一人いない。だからなのだろうか。まさか道の真ん中に、幻のセップ様がおわしますとは思いもよらず、これこそ千載一遇の出会い。ありがたし。


素人は無暗に森で採った茸を食すべからず、なんていうことは、百も承知であるが、この香りと、そしてむっちりとした重みは、本物でせう。間違う筈はあるまい。本能がそう伝えている。ふっふっふ。



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