2023年8月4日金曜日

トンカとミラベル

 





我が家の庭に二本あるミラベルが、今年は冷夏にも関わらず枝が折れる程に鈴なりに実をつけている。当たり年、ということなのだろうか。


さくらんぼの時には、毎朝トンカが庭に喜び勇んで飛び出して、夢中でたくさん食べて、最初は笑ってみていたものの、当たり前のことながら便がゆるくなり、実の割に大きな種が消化できずに排出され、トンカにとっては分からないが、私にとってはさくらんぼは大いなる悩みの種となってしまった。散歩の途中に何度も排便をしたからといって十分ではなく、寝る前にもう一度夜に外に出したとしても、甘酸っぱいさくらんぼの魅力に負けて、すぐにさくらんぼの木の下に行ってしまい、家に戻ってこないことさえもあった。


トンカが外に出る前に、庭に先に出て目一杯地面に落ちているさくらんぼを拾おうとするものならば、トンカが大騒ぎをして、朝っぱらからご近所さんを起こしてしまいかねない。仕方なしに、用意ドンでさくらんぼ拾いの競争となるが、毎日そんなことをしているわけにもいかない。最終的には、トンカには可哀想だったが、2週間程庭の外出禁止とし、家の中で既にリードをつけて外に出て、裏庭のさくらんぼの木に行けないようにしてしまった。


ミラベルはどうだろう。実際のところ、夏はトンカにとって二度目に迎えるのであって、昨年は一体どうしたのだろうか。丁度留守にしていて、息子バッタがトンカの面倒を見てくれていた時期にあたるのだろう。彼に尋ねてみたが、普段通り外に出していたが、特に困ることもなかったとの返事だった。昨年はミラベルは不作だったのだろうか。


ミラベルの実が未だ小さくて青い時期から、風で吹き飛ばされたり、鳥に落とされたりと、幾つか地面に転がり、太陽に照らされ熟成し、芳醇な香りが漂い始めてくると、トンカはすかさず転がるように走って行くと、無我夢中で味見をしていた。


リメンバー、さくらんぼ。


これはやばい。背に腹は代えられぬ、ということで、トンカには可哀想だが、さくらんぼの時と同様、庭の外出を禁止とし、家の中で既にリードをつけて外に出て、裏庭のミラベルの木に行けないようにしてしまった。丁度いいことに、このところ雨降りの日々が続いているので、特に文句を言うこともなく、とりあえずは問題なく日々が過ぎていた。


それでも、散歩の途中でプラムが落ちている場所など、大喜びで一粒、二粒と夢中で食べているトンカを見て、なんだか可哀想になってきてしまった。トンカの家の庭には、あれほど見事な実がなる木があるのに、その恩恵を享受すること叶わずに、拾い食いをしているトンカ。


そんな気持ちを敏感に察してか、遂に夕方、裏庭に面した大きなガラス窓のところで、悲し気に泣き始めてしまった。おしゃべりなロビンがトンカに、君の家のミラベルは今が丁度甘くて美味しいんだぞ、とても伝えたのだろうか。生意気な隣の猫が、君は最近自分の家の庭さえも自由に歩けないんだね、などと揶揄ったのか。


悲痛な泣き声に負けてしまい、いや、実のところ、ひょっとしたらどうしても用を足したいのかもしれないと、リードを付けて外に出してやると、遠慮をしてか裏庭には行かずに、前庭を確かめるかのように隅々まで嗅ぎまわって、満足そうだった。


そうだよね。そうだよね。せっかく庭のある家に住んでいるのに、庭に行けないなんて、それはあまりに酷い仕打ちじゃないか。丁度良いことに、テレワークが続くので、必要あればいつでもトンカを外に出してやることが出来る。


意を決して、翌朝、いつもの散歩の朝、家に入らずに、玄関の前でリードを外してあげた。そうして、ミラベルを摘むために籠を手に、用意ドン、ミラベルの木まで駆けだした。最初こそ、きょとんとしていたトンカだったが、状況を飲み込むと、飛び上がるように喜び勇んでミラベルの木の下に駆けこんが。そうして、餓鬼の如く、凄まじい音を立てながら、ミラベルを食べ始めた。負けてはいられまい。大急ぎでこちらも、ぷっくりとした丸い黄金の粒を籠に入れていく。


無我夢中だったのは、私の方だったかもしれない。籠一杯に摘んで、ひと段落した頃には、トンカの姿はなく、どうしたものかと見渡せば、ちょっと小高くなっているところに寝そべって、太陽の光を浴びて満足そうに日向ぼっこをしていた。


トンちゃん、満足したのかしら。予想だにしていなかった、不思議な光景だった。満腹、満足、そんな言葉は動物界ではありえず、出来るだけ食べることができる時に食べる、というものだとばかり思っていた。


幸せに満ち足りたトンカが、その日一日中騒ぐこともなく、お利口さんであったことは言うまでもない。過大評価は禁物ながら、さすがに過小評価していたな、とトンカの顔をじっと見つめてしまった。いやはや。学びは尽きない。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

PVアクセスランキング にほんブログ村

0 件のコメント:

コメントを投稿