2011年10月6日木曜日

病は気から



朝起きて気がついたら音の煩雑なシャワーの中にいた。
本格的な夏が始まる少し前の金曜日。

全ての外界の音が頭の中で反響し余韻がいつまでも続き、静寂の世界に戻ることはなかった。歩くと、自分の足音が頭の中で反響。運転していると、エンジン音が頭でエコーする。正気の沙汰ではいられない。電話を受けると、余りの音のリバウンドで頭の芯が痛み出す。

電話がかけられないとなると、仕事上致命傷と思われた。

原因は幾つも考えられた。

今年3月の震災以来、24時間体制の生活が続いていた。日本の家族が心配で、家族が大変な思いをしている時に、ぬくぬくと安全な環境にいる現実に耐えられなかった。日本政府、メディアの情報だけでは、事実が隠蔽されてやいないかと疑心暗鬼で、仏メディアはもちろん、仏・米大使館からも情報を求め、夜中には新たな日本のニュースを得ようと、24時間神経を張り詰め、現状を把握しようと焦っていた。

寝不足状態が続き、精神的にも心が萎えていたが、バッタ達の学校行事である運動会の司会役を引き受けていた。仕事をしている母親として、出来る範囲での貢献、出来る範囲での参加をモットーとしていた。が、『出来る範囲』の水準を自分でかなり引き上げてしまうことが往々にしてありがち。バッタ達に対して、学校への送迎はできないし、朝も一緒にいてやれないが、土日の行事なら200%心血を注ぐわよ、の姿勢を見せることで、彼らへの愛情を示していると勝手に思い込んでもいた。

同じように、バッタ達のバイオリン教室で、初めての県大会を企画しており、その企画メンバーともなっていた。100人の生徒とその家族を迎えての大会。当日は会場作りは勿論、昼食と午後のティータイムの担当となっていた。前日は10合の寿司飯相手に手まり寿司を作り、ガトーショコラとビスケットを焼き、当日は他のボランティアの方々からの食品を集め、テーブルにセット。そして、サービス。会場の清掃、片付け、と目まぐるしかった。

更に、アルト(ヴィオラ)の教本3冊目の終了試験に向けた夜の練習。

それに追い討ちをかけた、ロンドンへのトンボ返りの出張と、その足でのバッタ娘達のダンスのスペクタル。

そうして、次の朝起きてみたら、音の煩雑なシャワーの世界で目覚めたのである。

内科では風邪かもしれないと抗炎症剤を処方され、耳鼻咽喉科では、中耳炎でも内耳炎でもなく、難聴でもないと診断される。

数年前に自動車事故で大怪我をした同僚が、会社近辺に数人の名医を紹介してくれた。

藁にもすがるとはこのこと。頭の中の音の反響に我慢ができなくなったある日、その名医の一人に電話をし、すぐに診てもらうことに。

朝の陽射しが明るい中、なんだか悪いことをしている錯覚に陥りながらも、診察所に行くと、フランスにありがちなマンションの一室。壁には骨格や筋肉を中心とした人体図が所狭しと貼ってある。

優しそうな60代とみる医師は、私の苦悩を聞き終えると、では診察しますので衣類を脱いでください、ときっぱりと告げた。

先生、耳、耳の具合が悪いのですが、、、脱ぐのですか?

私の心の声を聞いたのか、「では、私は手を消毒してまいります。」と、ぱっと別室に行ってしまう。

戻ってきた医師により、直立した格好で背筋や背骨の確認がなされる。

と、今度は「ストッキングは施術の邪魔ですので脱いでください。」と明言される。

耳、耳、なんですよね。

その後、頸を中心とした施術をするには、レントゲンが必要なのでと、レントゲン撮影を命じられ、料金の支払いとなる。

あっ!

診断書を詳しく見ると医師は整体専門医!

それなら、耳の周囲の血流やらリンパの流れを良くすべく、足やら、手やらを回転させることもあろうか!

その医師が言う。耳鳴りは、非常に手ごわいのです、と。私には貴女の耳鳴りが聞こえません。治療法はあってないのです、と。それでも毎週通うことで、耳鳴りの程度はぐっと治まりますよ、と。

え?先生、完治しないのですか?

先生は、悲しそうな目を私に向ける。

一生、この耳鳴りとお友達、ってことですか?

「私が残酷だなんて、思わないでくださいね。それに、これが世界の終焉でもない。」

呆然としながらオフィスに戻り、レントゲンの予約をしなければ、と思いながら、同時に、白い木綿の大き目のパンツが必要だ、と思う。と、その時点で、何かが違う、と漸く気付く。これはストレスからきた耳鳴りなのであって、履くパンツまで気になるようなストレスこそ排除しなければならないのだ、と。

それから、この話をかいつまんで友人やら家族に話し、若干笑い話としてしまった。

指圧が得意な友人が肩凝りが原因よ、と肩を揉んでくれた。
バッタ達が毎晩、ハーブオイルを塗ってマッサージを施してくれた。
そうして、日本の母が、隣町まで行く感覚で、ある日、5日間だけマッサージに来てくれた。

応援に行かねばならないのは私であって、肩を揉んで孝行せねばならないのは私であるのに、情けないことに、蒸しタオルにマッサージと至れり尽くせりの治療を受けた。

そのうちに、また音のシャワーの世界に戻りながらも、時々、音のシャワーが皆無に思われる日も訪れるようになった。いつかは治るかもしれない、と思いつつもあった。いや、実のところ、音のシャワーの世界に慣れてきているのかもしれなかった。

そうして、9月に入り、バッタ達のバイオリン教室が再開する日。夏の間、耳鳴りが原因で一回も触れもしなかったアルト。今年は、無理をしないで、お休みしようかな、と、易きに流れる人間の性によって、心は大いに揺れていた。

バイオリンの先生は、嬉しそうにアルトの教本4冊目を手にしている。後半には、テレマンの2つのヴィオラの為の協奏曲が載っている。

ザイツもヴィヴァルディもぱっと終わっちゃってね。早くこの、テレマンに取り掛かりましょうね。私もヴィオラを買うことにしたのよ。

ストレスや疲れが原因で耳鳴りがしており、夏中練習をしてこなかったことを告白する。

すると、にっこり笑って、これに限るわよ、と紙切れに走り書きをして手渡してくれる。

head balance

頭痛や耳鳴りは歯の噛み合わせの均衡に問題があることが多く、この道具は、就寝前と朝起きたときに、カミカミするだけで、そんな悩みから解放してくれるという。

霧が晴れる。

ネットで調べて、即購入。届いてブツを見てびっくり。こんな簡単な器具で、音のシャワーから解放されるのか!

カミカミし始め、漸く一週間あまり。
無言でカミカミする私を、バッタ達はちょっと遠巻きにして見ている。

病は気から!
本当にそんな気がしてきた。
我が家からは毎晩ザイツの練習音が流れている。。。





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皆様のコメント心よりお待ちしております。

6 件のコメント:

あかうな さんのコメント...

クッカバラさん、いろいろ体験されてますね~。奥が深いです。針治療、クッバラさんの住んでいるところではありますか?多分、裸にならなくて済むと思うんですが。。。

kookaburra さんのコメント...

あかうなさん。。。

鍼、、、ですか。耳、耳なんですよぉ。

なんて、、、。そうですよね。鍼、効果抜群な気がします。色々試して見ます。ありがとうございます。

あかうな さんのコメント...

あ、もしかして、ご自分で針刺しちゃだめですよ。なんだかクッカバラさんはえいや、っと走りそうで。。。

kookaburra さんのコメント...

あかうなさん

ばれていましたか。。。ちゃんと消毒すれば大丈夫でしょ。きっと。ふふふ。楽しいコメントいつもありがとうございます。

Le Sirius さんのコメント...

めったに他人のブログにコメントを残すことはしないのですが、何となくクッカバラさんには話しかけたくなってしまい、再び失礼します。

もう!・・・春から夏にかけてそんなに大変なことになっていたとはつゆ知りませんでした。だいたいクッカバラさん - これは昔から知っていましたが - 責任感とファイトが凄すぎるんですよ。そのオーバーヒートに自分でも気づかないものだから、最後の手段で体が悲鳴を上げたのでしょう。

モノを噛むという動作は頭の周辺の器官の調整のうえでとても有効なはずです。耳に対しては特に顎の形や動きは重要ではないかと思います。その「Head balance」ってどういうものなのか興味津々ですが、ともかくも今はもう治ったのですよね。

貴女のアルトとバッタたちのヴァイオリンが、多忙激務の毎日に絶えず澄んだ穏やかなそよ風を運び込むのを祈っています。

それから・・・毎回たたずむ一枚の写真、どれも素晴らしいです。貴女がこんなに写真が上手いとは知らなかった。知らなかったことが何と多いことか・・・ということを知り始めています。

kookaburra さんのコメント...

Siriusさん

コメントいただけて嬉しいです。しかも、Siriusさんに写真なんか褒められちゃって、もう天にも昇る気分。へへへ。褒め上手ですね。

Siriusさんのこと、実際には知らなかったのは私です。いえ、知っていながらも、ほんの一部のみでした。でも、知れば知るほど、知らない部分が深くなる恐ろしい人物なのですよね。

まだ私はチラシ寿司を食べているのに、Siriusさんは多くの風を迎え、凝縮した一瞬、一瞬を生きている。まるで様々な曲を演奏するかの如く(共演かしら)。

これからもぜひ、コメント残してくださいね。楽しみにしています。