2023年9月13日水曜日

ボンジョルネ





 


緯度が高いだけあって、フランスにおける日照時間の変化にはすさまじいものがある。日本のように、畳一筋分づつ日が短くなる、などという奥ゆかしいものではない。夏時間であることも影響して、既に朝6時半にして外は闇。バス停でバスを待つ間も、漸く東の空が薄っすらと明るくなり出すといったところ。恐らく月末には、街路灯の光の下でバスを待つことになるのであろう。


だからこそ、この時期には日の出時の表情豊かな空を撮影するチャンスが転がっている。バスを終点まで乗らずに、一つ手前で降りて、街並みが目覚める様子を楽しむことも乙である。あらゆることを、あらゆる場所で、駆け足でやっていた昔が嘘のようである。


そんな風に、バスを降りて教会の白亜の時計台を見上げた時、降りる時に軽く挨拶をした女性が「先週、バスが来なくてお困りになりませんでしたか?」と尋ねて来た。その女性なら近所に住んでいて、時々バス停で見掛けており、会えば朝の挨拶をする程度ではあったが、知らない仲ではなかった。


確かに市内のバスのダイヤは全く当てにならないので、軽く挨拶をするように、相槌を打つように返事をしたところ、待っていましたかのように堰を切って話始めた。先週は時間になってもバスは来ず小半時間待たされたこと、それなのに漸くやってきたバスに切符の所有を確認する係員が入ってきたこと、若者が罰金を取られたこと。バス運行の遅延による利用者への損害は棚に上げて、罰金を取るとは何事か、と烈火の如く怒っており、どんどんと自分の言葉に興奮し、先週のことなのに怒り冷めやらぬ様子。


こちらは、正に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながら、あっけにとられて聞いていた。横断歩道の信号が青になっても話は続き、遂に赤になってしまった。女性は通りの建物に目を向けて、自分は市内で働いているからそれでも被害は少ないが、貴女のようにRERでパリに通勤する人たちにとって、バスが遅れることでの影響は大きいでしょう、とすごい剣幕。


しかし話すだけ話したら、気持ちも収まったのか、あら、貴女駅に行かないとね、と横断歩道の信号が赤になっていることに漸く気が付き、ちょっとだけバツの悪そうな顔をした。その様子に笑みがもれた。以前だったら、いつだって駆け足で髪を振り乱しながら突進している頃だったら、イライラしていただろうことも、ちっとも気にならない。


ボンジョルネ、良い日を、と笑顔でお互いに挨拶を交わし別れ、駅に向かった。今、正に、東の空の地平線から太陽が昇ってくるところだった。



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